2008年4月14日月曜日

知財ビジネス、出遅れ 新万能細胞iPSの真価/4

(毎日新聞社 2008年4月11日)

経済産業省で非公開の会合。
人工多能性幹細胞(iPS細胞)産業応用促進に向けた産学対話」。
製薬会社や機器メーカー計16社と、iPS細胞に詳しい研究者4人が参加。
倉田健児・同省生物化学産業課長は、
「いかにスピード感を持って研究を進め、出口の医療や産業に
結びつけるかが大事だ」。

国内では、タカラバイオがiPS細胞研究部門の新設を発表した以外、
表立った動きは見えない。
米国では産業化に向けた動きが活発化し、大手投資会社などが、
iPS細胞技術を実用化するベンチャーを創設。

米ハーバード大などの研究者は、ヒトiPS細胞作成の論文発表から
わずか1週間で関連ベンチャーを設立。

産業化の源である特許でも、日本発のiPS細胞の技術で
海外が取得する可能性が出てきた。

「マウスiPS細胞作成からヒトの成功まで約1年半あった。
その間にだれかがヒトでの特許を出願していてもおかしくない」と、
京都大iPS細胞研究センター関係者も不安を口に。

国内企業や研究機関はこれまで、バイオ分野の研究開発で欠かせない
DNA解析技術の「PCR法」や、エイズ治療薬などの特許を
海外の大学や企業に押さえられ、莫大な利用料を支払っている。

「幹細胞関連技術」の特許出願状況をみると、
1998-2003年の日米欧中韓当局への出願件数は約6560件。
米国が53%を占め、欧州の20%、日本の14%を大きく上回る。

米国圧勝の背景の一つに、制度の違いがある。
政府資金で取得した特許でも、大学や研究者のものにできる法律があり、
米国の大学が04年に特許で得た収入は約1498億円。
米国より20年遅れの99年に導入した日本は、約5億4000万円。

生駒俊明・科学技術振興機構研究開発戦略センター長は、
「特許に精通した人材が大学にはほとんどいない。
知財管理に回す資金も少ない。ベンチャー設立にも及び腰。
だから米国に負ける」。

iPS細胞の成功を受け、ようやく変化の兆し。
京都大、慶応大に相次いでiPS細胞研究の知財戦略を
積極的に支援するチームができた。
慶応大知的資産センターの羽鳥賢一所長は、
「研究者の発明届け出を待つだけではなく、
特許がとれそうなテーマを研究者に提案していく」。

知財管理は、なお日本の弱点。
多くの特許出願に携わる津国肇・津国特許事務所長は、
「知的財産はカネそのもの、という意識が日本では低い。
論文発表が優先され、特許出願が後回しのケースも。
iPS細胞は、新しい発想に基づき、幅広い恩恵が期待できる技術。
最初の特許戦略を誤れば、国民が払うツケは膨大になる」。
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◇特許と出願

新しい技術などの発明者に、一定期間、独占的な権利を与え、
発明を保護するのが特許制度。
発明内容を規定の書類に記載して特許庁に出願し、
審査で新規性などの要件を満たすと認められれば、特許権が得られる。

外国で特許権を得るには、各国で直接、審査を受ける必要。
ただし、国内出願から1年以内に、
特許協力条約に基づき国際出願をすれば、
この条約に加盟する各国での出願日は、原則として国内出願日と同じ。
各国での出願手続きは、国内出願から2年半以内。
発明技術が製品化にたどりつくまでには、通常10-15年かかる。
同じ内容で複数の出願があった場合、
米国は、先に発明したと認められた人が特許権を得る「先発明主義」。
米以外の国は、先に出願した人が特許権を得る。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=70852

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