(読売 6月2日)
ごく少数の、しかし、世界的トップ選手の薬物汚染で、
内外から不審の目にさらされる短距離王国・米国。
クリーンなアスリートにとっては、「風評被害」が広まる中、
反ドーピング(禁止薬物使用)の声は、選手側からも高まっている。
テネシー大体育館。
昨年の全米四百メートル女王のディーディー・トロッター(25)は、
練習後の着替えの時間も惜しんで語り始めた。
「ドーピングスキャンダルで、みんなが疑われている。
だけど、自分は違うと世間に発信したかったの」
昨年2月、独自の反ドーピング運動を始めた。
母と二人でNPO法人を設立。
1万1000ドル(約114万円)を投じて、白地に赤で
「TEST ME, I’M CLEAN」と記したリストバンドを作った。
2ドルでネット販売し、大会などでは無料配布。
既に約15か国から購入。
昨冬からは各地の高校などへ講演に出かけ、幅広い世代に、
薬物の危険性、誠実に生きることを訴える。
「薬物を使わないことは、人間として誠実に生きる証し。
最初は自分を守るためだったけど、このプログラムは一生続けたい」。
あふれる思いは2時間以上、途切れることなく続いた。
自分は自然そのまま、クリーンな身だ。
そんな意味のタトゥーを昨季前、腕に刻んだのは、
2005年ヘルシンキ世界陸上男子二百メートルで銀、
昨年の大阪世界陸上では銅のウォラス・スピアモン(23)。
トップ選手だった頑固一徹な父から
「ズルはするな。ハードな練習で正しい道を進め」とたたき込まれ、
アルコールはもちろん、カフェインも避けるためにコーヒーも飲まない。
「簡単にとれないタトゥーは、100%の覚悟の意味。
僕はクリーンだと示す重要なアクションだった」
パームツリー並木が迎えるロサンゼルス。
24年前の五輪で、カール・ルイスが4冠に輝き、五輪の商業化、選手のプロ化を
加速させた地で、米国陸上関係者の多くが反ドーピングの象徴として
名を挙げるアリソン・フェリックス(22)は、練習に励んでいた。
カモシカのような細い手足で、大阪世界陸上女子短距離3冠。
父と祖父が牧師の、信仰深い彼女は言う。
「今の時代に生まれたのも、神様が与えた使命。
北京では、人間らしい側面を見せてメダルを取れない可能性もあるけど、
それも自然の結果。
でも私は、科学の力に頼らず、自然な力で成功できると訴えたい」
米短距離界始まって以来の暗闇の時代、
胸の中に熱い思いを抱える「新世代」と呼ばれる選手たちがいる。
8月の北京で、彼らの輝きが、闇を振り払うか。
http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080602.htm
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