(毎日新聞社 2008年6月1日)
山中伸弥・京都大教授が生み出した人工多能性幹細胞(iPS細胞)。
再生医療実用化のカギを握るとして熱い注目。
現在は、細胞の基本的な性質や、より安全な作成方法など
基礎研究の蓄積が進められ、世界中の研究者が激しくしのぎを削る。
京都で行われた国際シンポジウムを核に、iPS細胞研究のトピックスを紹介。
◆がん化防止を模索
山中教授は、マウスの皮膚にある「線維芽細胞」に
Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、
の4つの遺伝子を導入し、iPS細胞を作り出した。
その後、がんの発生に関係するc-Mycを使わない方法でも成功。
いずれの方法でも、遺伝子の運び役として「レトロウイルス」を使う。
これが、がん細胞を生む可能性が指摘。
レトロウイルスは、細胞のDNAにランダムに入り込む。
入る場所が悪いと、細胞が異常化、がん化するおそれ。
導入した遺伝子が、予想外の働きをする可能性も捨てきれない。
そこで、遺伝子の代わりに、低分子の化合物でiPS細胞を作る方法が模索。
◆2遺伝子で作成
このテーマで注目を集めているのが、
スクリップス研究所(米国)のシェン・ディン准教授。
Oct3/4、Klf4の2遺伝子と低分子化合物で、マウスiPS細胞を作ったと発表。
従来より作成効率も高く、Oct3/4を除く3遺伝子と
化合物の組み合わせでも成功。
ディン准教授は04年、独自に見いだした化合物「リバーシン」を使って、
マウスの筋肉を作る細胞(筋芽細胞)を、
その前段階の前駆細胞に逆戻りさせたと発表。
今回の成果はその延長線上。
「彼は、化合物を使って細胞を初期化させる研究のエキスパート。
今後、この分野で世界をリードするのでは」との期待。
ディン准教授も、「近々、遺伝子を使わず、化合物だけで
iPS細胞を作ることもできるだろう」。
◆疑いを払しょく
米国の幹細胞研究の権威、ルドルフ・イェーニッシュ・
マサチューセッツ工科大(MIT)教授は、iPS細胞にまつわる一つの
“疑義”を晴らすデータを科学誌「セル」で発表。
iPS細胞は、分化が済んだ体細胞から作られている。
だが「実は、元になる体細胞の中に含まれていたごく微量の未分化細胞が、
iPS細胞になったのではないか」という疑問。
これを解決するため、イェーニッシュ教授は、
マウスの免疫を担うリンパ球のB細胞からiPS細胞を作ることに挑戦。
完全に分化した成熟B細胞は、体外からの異物を認識、攻撃するため、
遺伝子の組み換えが起きている。
利根川進・MIT教授が発見した仕組みだが、
イェーニッシュ教授はこの事実を応用。
成熟B細胞から作ったiPS細胞が、組換え後の遺伝子になっていることを
示し、分化が済んだ細胞からiPS細胞が生まれることを証明。
ただし、この方法では、山中教授が見つけた4遺伝子に加えて、
C/EBPαという五つ目の遺伝子が必要。
◆動物で病気治療
イェーニッシュ教授は、動物を使った治療実験でも成果を上げた。
遺伝性貧血症のマウスやパーキンソン病のラットに、
マウスのiPS細胞から作った造血幹細胞やドーパミン産生細胞を
移植し、症状を改善。
人間での臨床応用は、安全面などまだ多くのハードルがあるが、
イェーニッシュ教授は「(iPS細胞を使った人の治療は)
白血病などから始まるのではないか」。
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=74090
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