(読売 10月9日)
サザエは、殻の穴の直径が500円玉より一回り大きいもの以上、
アワビは殻の直径が10センチ以上に限る――。
大分県北部の国東半島沖に浮かぶ姫島(人口2500人)。
日に焼けた漁師たちが、大分県漁協姫島支店(姫島漁協)に集まり、
翌月から始まる潜水漁のルールに合意。
島には、乱獲を避けるため、明治時代から守り続けられた「憲法」がある。
漁期、操業海域、漁法を細かに定めた「漁業期節」。
魚介類の成長や資源量を踏まえ、毎年12月の漁協総代会で正式に決まる。
年間24日は一斉休漁日。
キスやクルマエビの刺し網漁は、小さい個体をとらないよう、
網目が一定以上の大きさのものしか認めない。
魚を一網打尽にする底引き網漁は一切禁止。
「明治時代、『鯛縛り』という漁法があってな。えらいとれた。
それで、決めごとをやめてしまった時期もあったそうや。
でも2、3年ですぐとれんようになった。苦い経験や」
漁協運営委員長(組合長)の北村昭雄さん(61)は、
和紙に記された漁業期節の束をめくり、
「先人の苦闘が刻まれとる。大きくは変えられん」
「小漁業者ニトリマシテハ死活ニ関スル一大問題……」。
戦前の古文書つづりには、困窮する漁師が規制の緩和を求めた
陳情書がとじ込まれている。
1年の漁獲を左右する総代会が激論になるのは、今も昔も同じ。
島では、クルマエビ、カレイなどの稚魚が毎年300万匹も放流。
「育てる漁業」も、水産資源管理の重要な柱である。
組合長室に、1枚の肖像画がある。
明治中期、姫島で森林組合を創設した中條石太郎(1847~1900)。
薪炭材の需要増で、森林破壊が進んだ時代。
漁協幹部でもあった中條は、私費で見張り番まで雇い、
水産資源保護につながる森の伐採禁止を訴えた。
森林の腐葉土層は、プランクトンや海藻に必要な養分を供給する。
「魚付き林」の大切さを説いた先人を、漁師たちは今も親しみを込め、
「石太郎さん」と呼ぶ。
緑が戻った島で、80年代以降に猛威をふるった松食い虫。
被害木を1本ずつ切り出し、浜に運んで焼く。
伐採跡には、シイやケヤキが植林。
搬出には漁師を始め、多くの島民が協力。
漁協青年部は被害木で魚礁を作った。
ここ数年、被害は下火になっている。
ハタハタの不漁に泣いた秋田の漁師は、禁漁に耐えて漁獲の回復を果たし、
宮城の漁師や市民は、漁場に流れ込む川の上流の山に木を植え続ける…。
漁業と共存する「里海」を取り戻そうという活動が、全国で動き始めている。
http://www.yomiuri.co.jp/eco/kankyo/20081009-OYT8T00347.htm
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