2008年11月15日土曜日

特集:働く女性(その1) 母性健康管理のあり方は--医療、労務の現場

(毎日 11月9日)

働く女性は年々増加し、全雇用者の4割以上を占める。
働きながら妊娠、出産する人も業種を問わず増えてきた。
安心して妊娠、出産期を迎えるために、国や企業は何をすればいいのか。
財団法人女性労働協会が、医師や労務問題の専門家を集めて
母性健康管理の望ましいあり方について調査研究している
「働く女性の身体と心を考える委員会」の模様を紹介。

女性労働協会(以下、協会)
今年度は、企業が母性健康管理に積極的に取り組むための情報提供として、
妊娠中から育児休業後の職場復帰まで、仕事と生活の両立支援を
積極的に実施している先進企業に事例調査を実施。
どの企業も、法律で義務化された措置を講じているだけでなく、
制度が利用しやすい職場の風土づくりにも取り組んでいた。

「働く女性の身体と心を考える委員会」では、これまでに実施した
7社の調査結果を基に、企業が母性健康管理の取り組みを
円滑に行うための留意点などについて。

中林座長
「取り組み前の現状と課題」に関して、出産を機に退職する女性が多く、
人材が流出して企業の損失だと気づいて、優秀な人材に長く働いてもらおうと
取り組みを始めたという企業が多い。

大久保委員
すばらしいところばかりだが、おおかたの企業の現状とはかなり乖離している。
非正規労働者に対しても同様に取り組んでいるのか?
妊娠中も無理をさせず、育児休業を取ってでも働いてもらいたい
貴重な人材だと思っているのは、正社員だけの話。
非正規の従業員まで含め、母性健康管理を徹底しているなら、本当にすばらしい。

中林座長
気になったのは、母性健康管理の対象者を企業が、
「『優秀な人材』として認識している」という点。
優秀な人には企業は当然、働き続けてほしいと思うもの。
しかし、それが女性全般に広がらなければいけない。
妊娠・出産期だけではなく、ライフステージ全般にわたって
配慮されなければいけない。

能力には個人差があり、どんな女性に対しても同じように考えることが必要。
出産を機に辞めるのではなく、継続して働いた方が、
自分のキャリアアップ、社会全体の労働力の活用から見てもずっといい。
育児中の短期間、少しペースダウンしてでも働き続けることのよさを、
経営のトップとともに職場の仲間が皆認識していかないと、
休みが取りやすくなる環境は育たない。

育児休業から復帰した女性たちは、
「自分たちが恩恵を受けたから、ちゃんと働かなくちゃ」とあり、
あまりにけなげすぎるじゃないか?
もっと女性の権利として、妊娠・出産の時はある程度のペースダウンは当然。
仕事を続けることが社会に対する貢献だというのが、
母性健康管理の哲学だ。

鈴木委員
まだまだ企業は遅れている部分があった。
企業にとって、必要な女性が妊娠・出産を理由に辞めた時に初めて、
大きな損失なんだと気がついた。
法令を順守して制度を整え始めた。
いったん制度を取り入れたら、能力で差別することは許されない。

今は過渡期。
妊娠・出産して、“寿退社”が当たり前の世の中が、
徐々に法律が整備され、ある特定の年代の人から恩恵を受けられる。
全員が恩恵を受けた世代になれば、年長者も、
自分は出産・育児で休んだから今度は若い人をサポートしようと思う。
若い人たちは、今はサポートする側だけど、
いつかは自分たちもお世話になるんだからと、
ギブ・アンド・テークのような関係ができてくる。

北浦委員
お互いさま意識ですね。

中林座長
そういうことです。
日本も結婚・妊娠・出産を経験して、管理職になるのが
一般的に受け入れられる社会にならないと。
いろいろな立場の働く女性が、妊娠・出産、育児を考える
一つのグループになることが、労働組合とは違う意味で大切。

鈴木委員
そこに男性も加えてほしい。
男性による子育てを当然と考えて、企業内で労働組合とは別の
妊娠・出産、育児に関するワーキンググループをつくってほしい。

中林座長
妊娠中や職場復帰後の相談窓口に関して、人事部など企業内の部署より、
周りの先輩の女性を見ながらやっていく人が圧倒的に多い。
管理職に、出産・育児経験のある女性を取り立てていくことが必要。

大久保委員
逆の場合もある。
あくまで何もトラブルが起きないで復職できた人が、管理職に。
セレクションがかかっている。
実際は、うまくいかなかった人がかなりいる。
トラブルのなかった人が上に来ると、かえってきつい場合もある。
「私はできた」と。
経験者の登用が必要かというと、どうかなと感じる。
知らない方が親切だったりする。
知っている人の方が、きつい時がある。

鈴木委員
優れた制度を持っている会社でも、制度を知らないとか、
就業規則を読んだことがないという従業員が非常に多い。
私のところに労働相談に来る人も、ほとんど就業規則を見ていない。
会社の就業規則は、国の憲法みたいなものだから、
会社にどういう制度があってどう運用しているのか、
労働者側も就業規則を知らないと、何も準備できない。
就業規則を読んでいれば、トラブルは小さいうちに防げたのでは、
というケースが、妊娠・出産に限らず多々ある。

長井委員
企業の公式の相談窓口に、「こういう経験をした人がいるよ」と、
社内の先輩を紹介してくれる機能があればいい。
客観的な制度の説明と、実質の相談という二つの機能を、
企業の窓口が果たせる。
相談に来る人は、就業規則を読んでも理解できないから来られるので、
制度を説明しても、「結局わかりません」となる。
「この部署にこういう先輩がいるから、一度話をしてもらえるように
つないでみようか」、という流れになると助かる。

協会
大企業で女性社員が少ないと、妊娠・出産の際に母性健康管理の制度を
利用した先輩がどこにいるのかわからないことも。
日立ソフトウェアエンジニアリングが、両立支援の取り組みを検討する
ワーキンググループを作っていたが、
女性社員同士が知り合うきっかけの場としても機能し、
先輩・後輩とのつながりが生まれていった。

大久保委員
ワーキンググループを常時走らせてもいい。
サークルのようなものを制度化して、新しく入ってきた人も
先輩の中ヘ入っていけるような仕組みを作っておけば、
自然に先輩の話が後輩に伝わっていく。
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◆母性健康管理

働く女性が安心して出産できるように、事業主が取らなければならない措置。
通院時間の確保や医師の指導に基づく勤務時間の短縮、時差出勤、
休業などで、正社員やパート、契約社員、派遣社員などの就業形態を問わず、
すべての妊娠中から出産後の女性労働者が措置の対象。

働く女性のうち、既婚女性が急増して6割近くになった73年5月、
労働省(当時)に産婦人科医や労働衛生の専門家でつくる
「母性の健康管理に関する専門家会議」が発足。
職場での妊産婦の健康管理のあり方について、
政策提言のための調査研究が行われた。

母性健康管理が事業主に義務づけられたのは、
97年の男女雇用機会均等法の改正から。
母性健康管理の措置は、それまでは努力義務にとどまっていたが、
改正均等法の全面施行より1年早い98年4月から事業主の義務として施行。

06年の再度の均等法改正により、母性健康管理の措置を求めたことなどを
理由とする解雇や不利益取り扱いが、改正法施行の07年4月から禁止。
同月から、企業が母性健康管理の措置を講じない場合、
厚生労働省の都道府県労働局雇用均等室に女性労働者が申し出れば、
無料で調停などの紛争解決を図る「紛争解決援助制度」が始まっている。

◆母性健康管理に関する制度の紹介サイト

女性にやさしい職場づくりナビhttp://www.bosei-navi.go.jp/
女性労働協会が、厚生労働省の委託で今年2月に開設。
労使双方に、情報提供と医師や労務問題の専門家による
無料メール相談を行っている。
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◆座長:中林正雄
42年東京都生まれ。68年千葉大医学部卒。
三楽病院産婦人科部長、東京女子医大母子総合医療センター教授を経て、
02年から愛育病院長。
産科医の立場で働く女性に望ましい母性健康管理について
国の調査研究に携わり、職場環境の整備や男性の育児休業取得の
必要性について発言。
06年9月、秋篠宮妃紀子さまの主治医として帝王切開手術を執刀。
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◇大久保利晃
放射線影響研究所理事長。専門は公衆衛生学。
慶応大講師、自治医大助教授、産業医大教授などを経て、
02~05年産業医大学長。05年7月から現職。
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◇鈴木千恵子
特定社会保険労務士。出産・育児に関連した労働問題に詳しく、
企業のコンサルティングや育児雑誌の監修、労働相談を通して
働きやすい職場作りに取り組む。
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◇北浦正行
社会経済生産性本部事務局次長。
企業の人事管理や労務関係などが専門。
ワークライフバランスを推進する民間運動に取り組む。
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◇内山寛子
JR東日本健康推進センター呼吸器科部長。
関東圏にある同社の事業所の産業医を務める。95年から現職。

http://mainichi.jp/life/health/news/20081109ddm010040029000c.html

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