2009年4月28日火曜日

浜野製作所、不況下の深慮

(日経 2009-04-21)

「不況の今こそ勉強しよう」——。
精密板金やプレス加工の浜野製作所(浜野慶一社長)の全社員は、
技能検定資格の取得を目指す。

「暇を生かして」ということかな、と思いつつ話を聞きに行ったら、
それだけではなかった。
「勉強」は、「強み」をもう1つ作る作戦だった。

同社の社員4人が国家検定制度である技能検定2級をパス。
職種は、3人が「数値制御タレットパンチプレス板金作業」、
残り1人が「機械板金作業」。
シートメタル工業会のセミナーに通った上での合格。
製造スタッフの20人と、営業の5人の全員が1級の検定合格を目標。

浜野製作所も、昨年末から売り上げが落ち始めた。
浜野社長は、直ちに技能検定資格の全社員の取得を宣言。
仕事量が減り、時間的な余裕ができた時だからこそ勉強もしやすい——。
ある意味では経営の常道。

浜野社長にとって、不況はきっかけにすぎなかった。
実は、少し前から「これまでの『強み』だけでいいものか」と考え始めていた。
同社は、「超特急で納入、1個でも受注」がキャッチフレーズ。
メディアに紹介される時は必ずこの切り口で描かれるし、
実際、それで生き残ってきた。

浜野社長が注目したのは、墨田区が工業振興マスタープランを
作成するため実施したアンケート調査。
結果を見ると、同社同様に「短納期」や「1個でも作る」を売り物にした会社は
概して売上高が落ちていた。

浜野社長はぎょっとし、そして考えた。
「短納期をセールスポイントにする会社が増え、
それだけでは『強み』にならない時代になった。
今後、不況が深まれば工場はより遊ぶだろうから、
短納期対応を掲げる会社はさらに増えるに違いない」

売上高を伸ばしているのは、「取引先への提案力」を
自らの強みにあげている会社が多かった。
「提案力」というと、抽象的で意味が分かりにくいが、浜野社長はこう考えた。
「わが社で言えば、渡された図面通りに作るのではなく、
設計段階から納入先に絡む、ということ」

取引先の大企業の人から、「うちの設計部隊は、
機械や電機は分かるが金属を知らない人が多い」、
「最近の設計者は現場経験に乏しく、ヤスリがけをしたこともない人ばかり」
といった困りごとを打ち明けられるようになっていた。

大メーカーの「現場力」は落ちている。
一昔前なら、大企業の開発チームは「お抱えの試作屋さん」を持っていた。
設計者がよく分からない領域では、試作屋さんの「現場の知恵」で
切り抜けることができた。
「長い不況の間、開発部門の『無駄な人員』が減らされる過程で、
お抱えの試作屋さんを使いこなすノウハウまでも失われたのだろう」(浜野社長)。

浜野の社員は、金属加工のプロばかり。
取引先に対し、「設計図面ほどに溶接を施さなくても、強度は十分に出る。
一部だけにして重量を減らしたほうがいい」、
「この部分は設計とは異なり、こんな金属素材を使った方が長持ちする」
といった提案ならどんどんできる。
「これを新たな売りにしよう」(同)——。

加工方法や素材に関する経験知を、理屈でもって話せないと、
相手の開発部隊に対し説得力が出ないはず。
浜野社長は、「全社員が技能検定で1級をとる」大方針を打ち出した。

「短納期+提案力」作戦は、始めたばかり。
目立った成果は出ていない。
浜野社長は考える。「不況の今だからこそ、『ここには未来があるぞ』と
従業員が信じられる会社にしたい。
経営者は、生き残りの道筋を明確に示す必要があると思う」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon090414.html

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