2010年1月21日木曜日

大手ゼネコン、不可避の「開国」

(日経 2010-01-12)

大手ゼネコンが、海外事業で大やけどする懸念。
頭打ちの国内建設市場に、半ば見切りをつける形で、
各社が海外受注拡大に拍車を掛けたのが5年前。

土木、建築ともに技術力の評価は高かったが、
労務対策や発注者の信用不安など、
リスク管理の面で思わぬトラブルに見舞われている。

前原誠司・国土交通相は、建設業界団体などとの会合で、
「国内ばかりに目を向けていないで、
海外でもうけることを考えては」と提案、
民族、風土の異なる国での事業の難しさを、各社は痛感。

「アルジェリア東西高速道路」という巨大プロジェクト。
東はチュニジア国境から、西はモロッコ国境まで、
アフリカ北部の砂漠の国アルジェリアを横断する
全長1200キロの高速道路建設計画。

3つに分けた工区のうち、最長の399キロの東工区について
鹿島、大成建設、西松建設、ハザマ、伊藤忠商事の
5社JV(共同企業体)が、2006年9月に発注者の
アルジェリア公共事業省と受注契約を結んだ。

日本の5社JVの名称は、「COJAAL(コジャール)」。
06年、国際入札では米べクテル、中国系の2つのJV、
イタリア系JVの4者を下した。
受注金額は、3410億ディナール(約5400億円)。
入札金額は最も高かったが、技術評価が最高で、
優先交渉権を得た。

アルジェリアは地震が多く、日本勢が得意とする耐震設計技術が
決め手の一つになった。
受注契約の翌月に着工、予想を上回るもろい地質や
悪天候などで工事は難航。

大きな障害となったのは、テロ対策。
用意されていた図面が古く、新たに航空測量を行おうとしたが、
反政府ゲリラに狙われるとの理由で、
飛行許可がなかなか下りなかった。
発破作業で必要な火薬も、政府軍の厳重な管理下にあり、
必要な量を確保できなかった。

昨年、COJAALの工区で暴動が起きた。
工事現場から数百メートル離れた自宅にいた20歳代の女性が、
発破で吹き飛んだ石に当たって死亡したことが引き金に、
周辺住民が押し寄せて建設機械に放火、
町役場を占拠して公文書などを燃やした。

女性の死因と工事との関連性は明確ではないが、
COJAALは発破作業を行っていたのは事実、
女性の遺族に謝罪して補償をした。

こうした一連のトラブルで、工事は遅れている。
計画では2010年1月に完成予定、
昨年12月初めの時点で工事進ちょく率は約60%。
鹿島の中村満義社長は、「工事は約1年遅れており、
工事損失発生の可能性は(交渉で)努力している時点」。

COJAALのJV出資比率は、鹿島と大成建設がそれぞれ37.5%、
西松建設が15%、ハザマが5%、
ウエートの高い鹿島と大成の株価の下落要因として、
「アルジェリアでの損失懸念」を指摘する声。

海外工事での苦戦は、これだけではない。
オイルマネーのバブルがはじけたUAE・ドバイにも、
大手ゼネコンの懸案。

代表格は大林組、鹿島、三菱重工業、三菱商事、
トルコのヤピ・メルカジ社の5社が、2005年にJV受注した
ドバイ都市交通システム(ドバイ・メトロ)。

当初は、東部のドバイ国際空港からジュベルアリ経済特区まで
52キロを約1時間で結ぶ計画。
全自動無人運転システムとして、世界最長路線というのが
売り物、昨年9月に一部開業。

当初の受注金額は3600億円、06年の追加受注で4900億円となり、
昨年8月時点では7200億円と、当初のほぼ2倍の規模。
路線延伸(全長74キロ)や駅の増設、デザイン変更、
歩道橋の追加などが工費膨張の要因。

費用が増加しても、支払ってもらえるならば問題はないが、
ドバイ・メトロの場合、工事に使用する材料の仕様について
発注者のドバイ政府道路輸送局(RTA)とJV側の解釈が一致せず、
RTAは膨らんだ工費と契約額の差額の支払いに応じない姿勢。

年明け6日、JV側は工事関係者による緊急会議を開き、
「工費の支払い遅延が続き、債権回収のための交渉を
打開するため」と、工事の一時中断を決めた。

未回収の債権額は、昨年10月時点で計52億ドル(約4800億円)。
今後の交渉の成り行き次第では、JV側の損失が
1000億円単位になる可能性も。

ドバイ・メトロでも、受注の決め手になったのは、
東京の臨海副都心を走る「ゆりかもめ」などで実績を積んだ
三菱重工の無人運転システムの技術。
400両近い電車車両は近畿車両が製造し、
変電設備は明電舎が納入。

タイ・バンコクの地下鉄工事での大林組の実績も評価、
2番札より3割以上安い価格を提示、
独シーメンスや仏アルストムなど欧州勢を蹴落として、
中東での大型プロジェクトをモノにできた。

アルジェリアやドバイでの損失懸念で、大手ゼネコン各社は、
アクセルを踏んできた海外工事受注の拡大戦略を見直す動き。

ここで尻尾を巻いて、逃げ出してしまって良いのかどうか。
「失敗は成功のもと」と受け流すには、余りに損失が巨額だが、
大やけどの経験を踏まえ、今後のプロジェクト管理の態勢を
再構築すれば、1000億円を今ドブに捨てたとしても、
将来その出費が生きてくる。

鹿島では、アルジェリア高速道路の工事のためのスタッフを
募集したところ、若手を中心に応募者が次々に手を挙げ、
現在100人弱の技術者が現地入り。
海外プロジェクトに対する社員の関心は高く、士気も旺盛。

建設経済研究所の予測では、
2010年度の国内建設投資は41兆6000億円。
これは、ピークの1992年度の84兆円の半分に満たない。
縮小する一方の国内市場をみれば、大手ゼネコンの
今後の成長は海外戦略なしにはあり得ない。

自民党政権下でほぼ半世紀続いた「土建国家」は、
ダムや道路、橋梁などプロジェクトを次から次に創出することで
建設需要を賄ってきたが、世界最高峰の建設技術を持つ
大手ゼネコンを国内市場に閉じ込めてしまっていた。

民主党政権の「コンクリートから人へ」は、ゼネコン業界の
“開国”を意味すると考えて良い。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon100108.html

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