2010年5月30日日曜日

フロンティア:世界を変える研究者/4 東京大総合研究博物館教授・諏訪元さん

(毎日 5月18日)

92年12月17日、エチオピア。
人類祖先の化石を探し、荒野を歩いた帰り道、
仲間が見つけたサルの化石の近くに、小さな1本の歯の根が。
引き抜いてひっくり返す。
表面のでこぼこの数や並び具合から、
かなり初期の人類のものと一目で分かった。
上あごの第3大臼歯(親知らず)。

個体差が大きいこの歯から引き出せる情報は限られる。
「せっかく見つかったのに、これじゃなあ」
発掘チームのリーダー、ティム・ホワイト米カリフォルニア大教授
苦笑い。
後に、「アルディピテクス・ラミダス」(ラミダス猿人)と
名付けられた、440万年前の人類の祖先が発見された瞬間。

ラミダス猿人の発見は、
当時の人類史を60万年もさかのぼらせた。
チームは昨年、17年間の研究成果を米科学誌「サイエンス」に
11本の論文として発表。
人類の起源に迫るこの成果は、同誌の09年のトップニュース。

「何でも妥協せずにやらないと、おさまりがつかない」
人類の歯では、世界屈指の知識を持つ。
熟れた果実を好むのか雑食か、現生人類に近いのか。
歯の形や表面のエナメル質の厚さを調べれば、
食生活や近縁種が分かる。

マイクロCTスキャナーを使って、徹底的に調べるのが「諏訪流」。
歯の断面を、数十マイクロメートルの精度で浮かび上がらせる技術は、
ラミダス猿人の頭蓋骨を、三次元で復元し分析するのに貢献。

共同研究で明らかになった人類の祖先は、
二足歩行が可能な骨盤と雑食性の歯を持っていた。
とりわけ目を引いたのは、雌雄とも犬歯が小さかったこと。
チンパンジーなどの類人猿は、雌をめぐって争うため、
雄の犬歯だけが大きく鋭い。

「二足歩行と一緒に、一夫一婦的な傾向も生まれている。
そもそも人間は、攻撃性が低いのでは」
化石から人間の本質や家族の起源まで迫ろうとしている。

「ゲンを、今日の成功に導いたものはひたむきさだ」と
ホワイト教授は評価。
米国に留学した諏訪さんを指導した80年当時から、
研究への没頭ぶりは群を抜いていた。
諏訪さんは教授から、幅広い知識を持つ大切さを学んだ。

「化石の研究は、現場検証に似ている」
骨や花粉、土壌という断片的な証拠を集め、
数百万年前に何が起きたのかを読み解く作業。
進化という「事件」と向き合うのだ。
答えは一つ、必ずある。
人類がどんな系譜をたどって、サルから進化したのか、
理屈抜きに知りたい」
その思いが、さらに先へと諏訪さんを駆り立てる。
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◇すわ・げん

54年東京都生まれ。東京大理学部卒。
米カリフォルニア大バークリー校大学院修了。
06年から東京大総合研究博物館教授。専門は形態人類学。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/05/18/20100518ddm016040155000c.html

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