(読売 7月14日)
自分たちで組み立てた燃料電池を使った回路から、
電子メロディーが流れた。
「やったー。鳴った」、「すごい、すごい」と歓声。
新宿区立新宿中学校の理科室で行われた3年生の理科の授業。
この日のテーマは、「エネルギー変換」。
生徒たちは、水に電気を流すと水素と酸素が発生する
電気分解を見た後、その逆の反応である燃料電池の仕組みを学び、
実際に作ってみた。
材料は、注射器2本、100円ショップで買ったプラスチック容器、
それに特殊な電極。
これらを組み合わせ、水酸化ナトリウム溶液と水素と酸素を
注入すると、燃料電池が完成する。
原理は分かっていても、単純な装置から電気が生まれるのには驚かされる。
優れた中学理科教師を表彰する「理科の達人先生」で、
宇宙航空研究開発機構理事長賞に輝いた同中の小林輝明教諭(46)。
1996年、燃料電池の教材を開発し、
今ではすっかりおなじみの燃料電池教材の原型となった。
当時、教科書に「燃料電池」という言葉は載っていたが、
燃料電池自動車の商品化などはまだ先のこと。
環境問題といえば、公害など負の遺産の話がほとんど。
「暗い気持ちになる話だけでなく、科学技術が世界を変えることを
伝えたかった」
この教材開発で翌年、東レ理科教育賞を受けた。
2007年、宇宙機構の招きで米航空宇宙局(NASA)へ行き、
実験を披露したことも。
本業の傍ら、昨年から通う東京農大大学院では、
新たな視点の環境教育研究に取り組んでいる。
◆理科の達人先生
理科教育に優れた業績を上げた中学校教師を表彰するもの。
NPO法人ネットジャーナリスト協会が、今年初めて実施。
◇体系立て効果的学習計画
「産業革命」、「現代社会」、「環境問題」、「エネルギー資源」、
「最新科学技術」といったキーワードが矢印で結ばれた図。
環境エネルギー問題に関係する学習内容のつながりを示したもの。
教科書の内容を、単に知識として教えるのでなく、
社会や科学とどう関係しているのか、教科全体の中では、
どう関連づけると良いのか。
理科の達人先生表彰で、初等中等教育局長賞を受賞した
練馬区立豊玉中学校の高畠勇二校長(57)は、
学習内容を体系的に整理し、効果的な学習計画作りに
役立てることに取り組んできた。
学習計画では、キーワードをさらに細かく具体的に分ける。
エネルギー資源は、種類や特性、発電の仕組みや特徴、
化石燃料と地球温暖化など、10項目以上。
この項目を学習計画にちりばめ、歴史や実情を踏まえた
全体像を理解させたいと願う。
「未知の課題で頑張る原動力となる成功体験は、
綿密な事前準備なしでは得られない」
◇「できる教員」地道に養成
国の科学技術の基盤を作るため、達人と呼ばれる理科教員の養成に
心を砕くのは、理科の達人先生で最高賞の文部科学大臣賞を
受賞した、葛飾区立亀有中学校の瀬田栄司校長(59)。
08年から、科学技術振興機構の理数系教員養成拠点構築事業で
推進委員を務め、教師の質向上に協力してきた。
いわゆる「授業のできる」教師は、各地で若手を教えるなど、
指導的役割を果たすべきだと考える。
「人材育成は、短期的に成果が出にくいので、地道にやっていくしかない」
教員育成の効率化を図るため、各地域での取り組みを
ネットワーク化することも重要。
「科学は面白い、大切だ」という認識を、子どもたちだけでなく、
大人へも広げていく必要があると考え、学校や大学のほか、
博物館や企業とも連携することも模索。
教頭になった1994年以降、授業をすることはなくなったが、
2007、08年には全国中学校理科教育研究会長を務めるなど、
理科教育全体を考える立場で活躍する。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100714-OYT8T00276.htm
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