(読売 10月15日)
色鮮やかなビー玉やサイコロなどが盛られた皿をはさみ、
割りばしを手にした学生が、教員と向かい合っている。
「最初はサイコロ、次は貝殻」。
教員の指示で、学生は器用なはしさばきでつまみ上げ、
別の皿へと移す。
「先生よりうまくなったんじゃないか」。
教員が言うと、学生の表情が大きくほころんだ。
大阪産業大学の学生相談室で、目にした光景。
学生相談室長で、カウンセラーの瀬島順一郎教授(63)に、
マンツーマン指導を受けていたのは、アスペルガー症候群と
軽度の学習障害の診断がある工学部4年の渡辺真さん(21)(仮名)。
同大では、発達障害の学生には、教員と学生相談室が連携し、
学習と生活を支援する体制を整えている。
渡辺さんは、苦手な科目の単位がなかなか取れずに悩んだ末、
2年生の時、学生相談室を訪れた。
渡辺さんは、力の出し方をコントロールしたり、場面に合わせて
声の大きさを変えたりすることができなかった。
そこで、上手な会話の仕方など、社会生活や対人関係を営む
技能である「ソーシャルスキル」を、
学生相談室でトレーニングすることになった。
はしの練習も、その一環。
「うまくできたらほめ、ちょっとでもいいところを伸ばす。
自分の行動が認められることで、自信が強まっていく」と瀬島教授。
学習面では、丁寧に補習をするようにした。
学生相談室から連絡を受けた当時の工学部長、
中村康範教授(62)は、「授業後に、積極的に質問するなど
学習意欲は旺盛だが、相手の気持ちを考えずに
しゃべり続けてしまうところがあり、発達障害ではないかとすぐ気づいた。
先輩が、後輩に勉強を教えるピアサポートのシステムの活用を考えた」
「学習の支援は教員にしかできないし、学生生活の中で生じる問題は
心理職が専門。
両者が密接に連携しないと、発達障害学生の支援はうまくいかない」
学生生活支援コーディネーターの松岡信子さん(40)。
大学の支援で、大きく成長した渡辺さんが今、直面しているのは、
就労の問題。
コミュニケーションが苦手という自身の特性を、企業に理解してもらうため、
療育手帳を取った。
知的障害を伴わない広汎性発達障害者の就労には、
学習と同様、周囲の理解と支援が欠かせないが、壁は高い。
◆療育手帳
知的障害者に、都道府県・政令市から交付され、
各種福祉サービスが受けられる。
手帳取得により、一定割合の障害者雇用を義務づけられた企業に
採用されやすくなるというメリット。
精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳があるが、
発達障害に特化した手帳を求める声もある。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20101015-OYT8T00200.htm
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