(読売 10月14日)
授業が半ばを過ぎたころ、四重に重ねた半透明のシートが配られた。
「弱視の見え方や心理を考えてみて」。
講師の言葉にうなずきながら、学生たちはシートを目の前にかざし、
必死にテキストの文字を読もうとする。
東北公益文科大学で、「インクルージョン社会論」の授業。
15人の学生が、視覚障害者の移動介助や、点字の名刺作りなどを体験。
「指で点字が読めるのを、『すごい!』と言う人がいるけれども、
視覚障害者にとっては平仮名を読むのと同じこと。
そこが分からないと、すべての人々が排除されることなく、
幸せに生きられるインクルージョン社会は実現しない」。
自らも視覚に障害がある講師が訴えると、
学生たちの表情がぐっと引き締まった。
「インクルージョン社会をめざした大学づくり」を掲げた同大の取り組みは、
2007年度の学生支援GPに選定。
発達障害など、特別なニーズを持つ学生と共に学び成長していく
「共育」に力を入れ、授業はその一環。
学生たちは半年間かけて、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、
発達障害と精神障害について理解を深め、その支援方法について学ぶ。
「特別なニーズを持つ学生が、当たり前に過ごせるキャンパスを整備し、
そうした環境で育った学生を社会へと送り出す。
市民向けの公開講座も開き、インクルージョン社会への理解と活動を
促している」
学生共育支援室長の伊藤眞知子教授(57)。
発達障害学生への支援では、板書や資料を使って、
より丁寧に説明するようにするなど、
授業のユニバーサルデザイン化を進めている。
言葉で話すだけでは理解が難しい、という障害の特性に配慮。
この結果、発達障害のある学生だけでなく、
障害のない学生からも、「分かりやすい授業になった」と好評。
支援を的確に判断するため、サポートの必要度を5段階に分類した
「支援スケール」を開発、用いているのも同大の特徴。
「手取り足取りの支援では、本人の力がつかず、
自立へとつながらない」
副室長の田中和代さん(59)が、苦い経験を振り返る。
「能力がないのに卒業させてしまうのは、高等教育機関として違う」
と伊藤教授。
支援と学位授与方針との間で揺れながら、
「客観的合理性のある配慮」を探る同大の模索が続く。
◆学生支援GP
正式名称は、「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」。
文部科学省の事業で、学生の支援に立った独自の工夫や努力による
優れた取り組み(Good Practice)を、4年間財政支援。
大学の発達障害学生支援では、東北公益文科大のほか、
富山大、信州大、プール学院大が選定。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20101014-OYT8T00199.htm
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