2008年5月26日月曜日

第1部 イノベーションを考える/3 大学発ベンチャーに…

(毎日 5月18日)

米国のマイクロソフトやグーグルなど、イノベーションの創出に
ベンチャー企業の存在は欠かせない。
新技術やビジネスモデルで、新たな市場を築くことはリスクを伴い、
大企業には取り組みづらい賭け。

日本は、国策として「大学発ベンチャー1000社計画」を進めるなど、
ベンチャー育成に力を入れている。
だが、数は増えてきたものの軌道に乗った会社は少ない。

「収益が出るまでには時間がかかる。初めから説明していたのに……。
資金を引き揚げられたら、やっていけるはずがない」。
「夢の人工血液」を目指し、02年に設立された関東地方のベンチャー企業。
資金調達が厳しくなったため、事業の継続を事実上断念し、
他社への事業譲渡を進めている。
大幅なリストラも実施したが、追いつかなかった。

大学での研究成果を基に、06年までにベンチャーキャピタル約40社から
計40億円もの資金を集めた。

ところが、なかなか製品化に結びつかないと見るや、
一昨年以降、突然、資金を引き揚げる社が相次いだ。
ベンチャーキャピタルは、成長が見込まれる未上場会社の株を買う形で支援し、
企業価値が高まった時点で株を売って利益を得る投資会社。
彼ら自身も、自分たちの生き残りをかけている。

医薬品の世界では、実用化される研究成果は極めて少ない。
リスクが大きいだけに、資金はベンチャーキャピタルなどに頼ることに。
「ベンチャーキャピタルは近年、短期での収益にばかり目が向いている。
これでは、イノベーションにつながるような技術のタネが、
埋もれてしまうかもしれない。初期段階までは、国の助成が欲しい」。

国の規制も、バイオ部門では支障となる恐れ。
再生医療製品メーカー「ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)」
(愛知県蒲郡市)。
清潔に保たれた真っ白な培養室で、患者から取り出した表皮を
増殖する作業が静かに進められている。
切手大の表皮が2週間もすれば、たたみ1畳くらいの大きさ。

J-TECは99年、名古屋大などの技術を基に設立された大学発ベンチャー。
表皮や軟骨などを培養して増やし、重度のやけど患者などへの
再生医療に利用することを目指す。
昨年秋には、自家培養した表皮の製造承認を、
厚生労働省から国内で初めて取得。
海外では、20年以上も前に同様の技術が商品化されているが、
承認を受けるには準備期間も含め約10年かかった。

当初、国は製造承認に薬事法に基づく治験(臨床試験)は
必要ないとの姿勢。
患者自身の細胞を増やし、再び戻すだけ。

ところが、J-TECが設立されると、安全面の懸念などから、
国は治験の実施を要求。
設立から2年後、治験開始についても、安全性の評価を
事前に確認する新たな関門が設けられた。
製造販売後に使用成績を調査し、製品を30年間
保存しなければならないなど、新たなルールも作られた。

小沢洋介社長は、「きちんとした産業化を進める上でも、
一定の規制は必要だが、海外では何をクリアしたら承認されるか、
というゴールが明確。越えなければならないバーが、
時間と共に高くなるようなことが日本で続けば、
海外に流出するベンチャー企業が出てくる恐れがある」。

大学発ベンチャーは、産官学による積極的な取り組みも加わり、
2000年ごろを境に急増。
06年度には1590社に達し、5年間で2.7倍増。
しかし、経営状況をみると、全体的に営業利益は赤字続き。
06年度では、1社当たりの赤字額平均は4530万円。
前年度に比べ、1000万円以上も増えている。

経済産業省の研究会がまとめた報告書では、
大学発ベンチャーの抱える課題として、人材、資金、販路の三つ。
製品化まで時間がかかるため、経営面や技術面でリスクが高いことや、
販路が限られ新たな開拓が難しいと分析。

小田切宏之・一橋大大学院教授(産業経済学)は、
「製品化までに時間がかかる業種のベンチャー企業にとって、
銀行やベンチャーキャピタルから大きな出資を望むのは厳しい。
大企業と連携することが重要。
日本のベンチャーには、経営や渉外能力のある人材がまだ少ない。
技術革新につなげるためにも、こうした人材の育成も必要」。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20080518ddm016010057000c.html

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