(読売 12月9日)
11月下旬。
ぬかるんだ広場で、子どもたちが長靴を泥だらけにしながら、
子豚の「さな」の体重を量っている。
教室に戻ると、壁に時間割はなく、あるのは
「さなちゃんのたいじゅう」の棒グラフや、カタカナの勉強用に
張り出された「ブタ」、「エサ」、「ワラ」の文字。
長野県伊那市立伊那小学校の1年夏組では、
子豚との生活がすべて教材に。
32年前から、全校で取り組む総合学習の先駆者。
3年間クラス替えをせず、子どもたちが選んだテーマを
時間をかけて発展。
テーマは、低学年は動物の飼育が多く、高学年になると
熱気球作りや五平餅作りなど様々になる。
1年夏組では、いろいろな家畜に親しんだ後、子豚を選んだ。
2学期から飼い始めたが、たびたび脱走し、校舎内で大暴れ。
そこで、子どもたちは、慣れないノコギリやトンカチを握り、
丈夫な柵を作りあげた。
同小では、子どもたちの中から意見や解決策が出てくるのを、
教師がねばり強く待つ。
動物の名前をつけるのに、話し合いが1か月かかったクラスも。
チャボを育てるクラスでは、チャボを怖がった子が
抱けるようになるのを、2か月間見守った。
「先生たちは、祈るような気持ちで子どもを見ている」と武田育夫校長(52)。
根底には、「子どもたちが、自ら成長する力を信じる」という
揺るぎない理念がある。
既成のノウハウが通用しない授業だけに、先生も悩みの連続。
学習指導要領の順番を飛び越えたり、欠けたりするのを補う必要も。
短期的な視点で成果を判断しないのは、
子どもたちが夢中になった活動の達成感の大きさを実感しているから。
2年前、「総合学習30年」を記念して行った卒業生へのアンケートでは、
約70%が、「総合の経験が生き方や進路に影響を与えた」と答えた。
総合学習を経験した卒業生が親になり、
地域全体がよき理解者なのも強み。
毎年2月に開く公開研究会には、全国から約600人もの先生が集まる。
実践をまねるより、子どもと一緒に奮闘し、成長する教師の姿に、
「教師を志した原点に立ち返る」と何度も訪れる人が多い。
「マニュアルでは、人は育たない。
先生同士が、子どもを語り合う大切さを発信しつづけることが、
伊那小の使命」と武田校長。
「総合の火をともし続ける」という覚悟と喜びが、学校全体に漂っていた。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20101209-OYT8T00193.htm
0 件のコメント:
コメントを投稿