2008年8月19日火曜日

應義塾大学医学部長・末松誠氏に聞く(下)

(医療維新 8月14日)

――若手医師の待遇面でどんな改革を実施しているのか?

若手医師の待遇改善のため、教授会が相当努力をしている点。
私が、医学部長に就任してまず取り組んだのは、医学部の財務改革。
大学全体のバジェット(予算)は限られ、私学助成も年1%ずつ減らされ、
資金が潤沢にあるわけではない。
可能な限り無駄を省いたり、毎年割り当てられてきた「経常費」の見直しで、
ねん出した原資を、若手医師の振興策に回すように努力。
家にお金がなくて、子供が泣いている。
そんな時に、親が飯を食べ、子供にご飯を食べさせないなんてあり得ない。
自分もいわゆる「無給医」の一人。

――「親が飯を食べ、子供にご飯を食べさせないなんてあり得ない」というは
興味深いたとえ。

一番立場の弱い人たちに、どうがんばってもらうかが大事。
教授会構成員が理解を示してくれたおかげで、
「既得権」として経常的経費で保有していた原資を回し、
若手振興策の資金に充当することを、教授会の意思として決定。
これは非常に大胆な改革。
一方で、積極的に人材育成プログラムなどの競争的補助金を
獲得することにも力を入れ、今年度は相当の成果を挙げることができた。
向こう5年程度の中期的資金計画に基づいた人材育成プログラムを
考えながら、制度の整備を進めることが可能に。

――「経常費」の改革はいつから実施?

昨年秋から検討に入り、2008年度予算から実施。
削減・節約した経常費の一部は、大学院生の奨学金に。
大学院の学費は年間約120万円、1人の奨学金は年60万円。
1、2年生には、ミッション・ステートメントとして、
「今年何をやるか」をまとめ、書類審査を実施した上で奨学金を支給。
修了後にも、リポートを提出。
3年生以上は、1~2年の研究成果で判断。
3年で修了し、3年間奨学金を得て研究を終える医師も出てくる。

――大学院生は一学年何人?

今年度から、60人から68人に定員を増やしましたが、ほぼ充足。
昨年までは6~7割だが、応募者数自体が非常に増加した。
制度改革を進めていけば、大学院にレベルの高い医師が集まる。
二つの領域で、グローバルCOEプログラムを実施。
大学院生の研究活動に対して、給与が支払われる。
2年間の研究専念期間は、臨床はできませんが、
グローバルCOEプログラムがサポートする。
月5万円の給与があれば、年間60万円、
奨学金と合わせれば実質上の学費はゼロに。
今年の7月から、女性医師の職場復帰制度も始めた。

――それはどんな仕組みか?

朝10時に来て、午後4時に帰宅するなど、短時間勤務を可能にする制度。
非常勤の助教のポジションで、時給は安いが、
職場に復帰するチャンスを与えるという発想。
学生教育、臨床、臨床研究など、ミッションを明確することが前提。
勤務の日数や業務の内容により、常勤扱いとし、研究歴として認める場合も。
専門医の認定に必要な臨床経験を積む時間にも使うという選択肢。
30人程度の枠を作り、6月から募集を開始、ほぼ埋まりつつある。

――地域医療への慶應大学のかかわりについて?

慶應義塾大学には、首都圏を中心にとした104の病院からなる
関連病院長会議がある。
埼玉、千葉、茨城、栃木などの医師不足に悩む地域にある病院も少なくない。
関連病院の会議の中で、「教育中核病院」の認定基準の作成を進めている。
この基準は、「クリティカルパスの導入の有無」、「救急車の搬送受け入れ件数」、
「インターネットで電子ジャーナルを読むことができる環境」など
若手医師が専門医資格を取得するために必要な環境の指標となり得る
チェック項目を設け、「連携協議会」という大学側と地域の病院の
代表者から成る会議体で毎年評価をしていく仕組み。

初期研修修了後に教室に所属する医師は、ほとんどの場合、
その後の4~5年間のうち、2年間は地域の教育中核病院で
サブスペシャリティーを磨くための修練。
教育環境がしっかりしているかを評価するため、
大学だけでなく、地域の病院の先生方とともに基準を構築している。
専門研修病院の質の担保をしなければ、若手医師は集まらない。

認定基準を作り、来年度から本格実施する予定。
医療は、時代とともに変化するから、認定基準も毎年見直す。
教育中核病院にとっては厳しいが、
「大学側も努力しているので、病院側も努力してください」という発想。

――大学が中心となり、地域の病院とネットワークを組むという発想?

大学側が一方的に決めたのでは何もできない。
認定基準も、連携協議会で決める。
医師の派遣人事も、医局単位ではなく、連携協議会の意思も表明して決定。

――「医師の数を増やすことは重要だが、並行して大学の
マネジメント改革を進めていかないと問題は解決しない」ということ。

その通り。

――大学にとって、役割は異なる。
慶應義塾大学は、「基礎・臨床一体型の医学」を実践する医師の養成、
地域医療の担い手の育成が役割の大学もある。

大学がそれぞれの個性を生かし、ミッションを設定して改革に取り組むべき。
われわれのシステムが100%だとは思わない。
自分たちで工夫できることをあきらめずに実施し、どこまで可能かを追求。
物品の共同電子購入などにも取り組んでいる。
若手研究者の研究費は、数百万円程度。研究は、簡単には増えない。
試薬が、共同購入で30~40%引きになれば、
研究費はその分、余裕が出ることになり、事務職員の負担軽減にも。
若手医師支援の一環。
こうした仕組みは次々に導入していきたい。
企業が取り組んでいる、いいアイデアを医学部と病院に徹底的に取り入れる。
医学部と病院が協同して財務改革を進め、
その浮いた分を若手医師の支援に充てるのが基本的な考え。

http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080814_1.html

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