2010年2月25日木曜日

筋肉痛 知って付き合う

(2010年2月19日 毎日新聞社)

普段運動していない人が、運動後に悩まされるのが筋肉痛。
対処法を含め、筋肉痛に対する誤解も多い。
筋肉痛に関する最近の知見と、上手な付き合い方を専門家に聞いた。

筋肉痛とは、筋肉のどのような変化で起こるのか?
大阪市大大学院の橋本祐介講師(スポーツ整形外科)は、
「筋肉痛には、運動中には痛むが、運動を中止するとなくなる
現発性筋肉痛と、運動後数時間から1~2日後に痛みが生じて
1週間程度で消える遅発性筋肉痛がある」
私たちが、運動後で苦しむ筋肉痛は後者。

遅発性筋肉痛は、持ち上げたダンベルをゆっくり下げるときの上腕部や、
階段を下るときの太ももの筋肉のように、
縮めた筋肉が伸ばされる(伸張性収縮)運動をした時に起こる。

豪エディス・コーワン大の野坂和則教授(運動生理学)によると、
伸張性収縮運動で、筋肉の周りの結合組織に小さな傷がつき、
炎症を起こす。
傷自体は痛みを感じるものではないが、炎症によって、
痛みを感じる神経が過敏になるため、体を動かして
筋肉が圧迫されたりすると痛みが起こる。
運動から炎症反応が起こるまでの時間差が遅発性につながっている。

「筋肉痛は、年をとるほど後から来る」と言われる。
野坂教授が、日本の大学生12人(18~25歳)、
中年12人(40~55歳)、高齢者10人(65~75歳)の3グループに、
ダンベルの上げ下げ運動後に起こる腕の筋肉痛を調べたところ、
年齢による時間の差は確認できなかった。
痛みのピークは、年齢差よりも個人差が大きかった。

野坂教授自身が86年、26歳時に実際にさまざまな運動をして、
後の筋肉痛を調べたところ、マラソンでは運動中から痛みがあったが、
腕立て伏せでは、運動中や直後は痛みがほとんどなかった。

野坂教授は、「筋肉痛が起こる時間は、運動の種類によっても異なる。
年を取ると、直後に痛くなるような運動をする機会が
減るのではないか

運動後に起こる筋肉痛について、かつては「乳酸蓄積が原因」
高校の保健体育の教科書にも掲載された知識だが、
現在の生理学では疲労の原因ではない。

乳酸が疲労原因と考えられたのは、運動によって
血中の乳酸濃度が高まっていたから。
東京大の八田秀雄准教授(運動生理・生化学)は、
「乳酸は老廃物ではなく、有効なエネルギー源」

エネルギーは、細胞内のミトコンドリアで糖や脂肪から合成。
急激な運動をすると、糖分解が活発化してミトコンドリアに送られ、
ミトコンドリアでの処理には限界があるため、一時的に余ってしまう。
それが乳酸だ。

八田准教授は、「乳酸が疲労物質なら、運動後もずっと残っている。
実際は、運動から1時間もすれば元のレベルに。
疲労物質ではない何よりの証拠。
疲労は、もっと複合的な要素で起こる現象

遅発性筋肉痛を軽減するには、どうすればいいのか?
準備運動や整理運動に予防効果があるという意見もあるが、
野坂教授は、「けがの予防などにはなるが、筋肉痛が軽減されたという
科学的な結果は報告されていない」
運動後に筋肉を冷やすアイシングについても、
「靱帯損傷などの最悪の事態に備えて、
『冷やさないよりもいい』とは言えるが、筋肉痛に効くというデータはない」

野坂教授の実験では、運動の1日前に、電子レンジで使われる
極超短波を20分間筋肉に当て、40度以上に温めておくと、
筋肉痛が抑えられた。
野坂教授は、「運動前日、熱いふろに入るのも有効かもしれない

野坂教授の実験では、2週間前に同じ運動をしておけば、
筋肉痛の程度が8割減り、4週間前だと4割減る。
筋肉痛予防には、事前に少しでも運動しておくことが有効。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/2/19/116249/

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