(毎日 7月21日)
「私たちが泣いたり笑ったり、恋をしたりするのも、
すべてたんぱく質の仕業」
遠藤さんは、講義で学生にそう説明する。
生物の体を構成するたんぱく質。
たんぱく質を作っているのは、細胞内の小器官リボソームだ。
日米欧の国際チームによるヒトゲノム(全遺伝情報)解読に、
世界の耳目が集まっていた90年代後半。
進ちょく状況を耳にするたび、「解読しても、スペル(つづり)が分かるだけ。
その意味を理解するためには、遺伝子からたんぱく質を
人工的に合成する装置がいる」と自らを鼓舞。
遠藤さんによる世界初の「無細胞たんぱく質合成装置」は、
03年完成。
同年のヒトゲノム解読完了後間もなくだった。
一晩で384種類ものたんぱく質を、細胞なしで合成できるこの装置は、
ポストゲノムの中核であるたんぱく質研究を大きく進めた。
「研究者になりたい」と、地元の大学の栄養学科に進み、
たんぱく質合成というテーマに出合った。
「たんぱく質合成の仕組みは複雑で、試験管内で再現することは不可能」
が当時の常識。
「やるなら難題に挑戦しよう」と考えた。
大腸菌などの生きた細胞に遺伝子を導入し、
たんぱく質を作らせる方法(組み換え法)が開発、
限られた種類のたんぱく質しか合成できず、その量も少なかった。
細胞をすりつぶした液に遺伝子を入れる方法(無細胞法)は、
合成を担うリボソームが壊れて、反応が1時間ほどで止まってしまう。
「どうすれば反応が続くのか」
研究するうち、すべての生物はリボソームを破壊する
「自殺酵素」を持っていることを突き止めた。
反応が続かないのは、酵素が自らのリボソームを破壊してしまうから。
この酵素を除けば、持続するはずだ。
愛媛大に移った92年、小麦を材料に実験を始めた。
小麦の自殺酵素は、全体の99%を占める胚乳だけに存在。
1%の胚芽を分ければうまくいくと考えたが、薬品ではうまくいかない。
試行錯誤の末、胚芽についた小麦粉(胚乳)を
水で洗い流す方法にたどり着いた。
98年、取り出した胚芽の抽出液で、
反応を2週間持続させることに成功。
「『遠藤は思いつきで偶然うまくいった』という人もいるが、
誰もやらない研究を20年以上続けてきた。
無細胞法しか成功する方法はない、と確信していた」
実験は副産物も生んだ。
胚乳を使った焼酎。
前学長が名付けた銘柄は、「自由人」。
独自の発想で道を開いてきた遠藤さんらしい味がする。
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◇えんどう・やえた
46年徳島県生まれ。75年徳島大大学院博士課程修了。
山梨医大助教授などを経て、92年愛媛大工学部教授。
03年より現職。
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/07/20/20100720ddm016040119000c.html
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