(毎日 1月11日)
「史上最大規模の細菌兵器工場」とされる旧日本軍「731部隊」。
本部があった中国ハルビン市で、当時を伝える遺構の保存活動が
今年、本格化する。
活動するメンバーらは、医学や科学が悪用された「負の遺産」として、
アウシュビッツ強制収容所(ポーランド)や原爆ドーム(広島)と並ぶ
「世界遺産」への登録を目指している。
活動を率いるハルビン市社会科学院の金成民731研究所長が、
今年から6年かけて取り組む保護計画を明らかに。
計画によると、同市郊外の本部棟や衛兵所、
細菌を拡散させるためのネズミ飼育室、死体焼却炉、凍傷実験室など
7地区計37万7000平方メートル(東京ドーム約8個分)を
史跡として整備する。
旧日本軍戦犯の供述を刻んだ「証言碑」や、
日中交流を進める「平和友好の森」も設ける。
◆荒廃進み開発も
部隊は、第二次大戦の終戦直前、証拠隠滅のため主な施設を破壊。
残った施設も戦後、工場や学校として使われたり荒廃が進んだ。
81年、作家の森村誠一さんが、部隊の行為を告発した
ノンフィクション「悪魔の飽食」を出版。
それを機に、現地で保存の機運が高まり、中央政府は06年、
一帯を「重点保護区」に指定。
保護区内には、ショッピングセンターやマンションの建設計画が相次ぎ、
地中から見つかった毒ガスなどの遺棄兵器による健康被害も問題。
金所長によると、09~10年、保存の動きが進展した。
本部棟の一角にあった中学校や民家288戸が移転。
1500平方メートルの地下貯水池が見つかり、
他の地下施設とともに公開される見通し。
解剖室などの重要施設は既に失われ、毒ガス発生室や
細菌弾組み立て保管室は工場、市街地にある将校宿舎などは
今も店舗や住宅として使われている。
史跡として整備するには、今後数年かけてこれらの退去を促すほか、
景観を損なうビル6棟の撤去も必要。
◆人類への警告
金所長は、遺構の価値として、
(1)細菌戦争の発祥の地、
(2)人類に幸福をもたらす医学と科学が、目的に背いた野蛮な歴史の記録、
(3)旧日本軍の侵略と証拠隠滅の物証、
(4)人類に警告を発し、戦争を反省させる最も説得力のある例証--
など6項目。
「遺構はハルビンにあるが、全世界の所有物。
残酷な歴史が人類に残した特殊な資産。
保存は、ハルビン市民の責任であり、全世界の平和を愛する
人々の問題でもある」
日本政府への要望として、「保存に参加し、史跡として利用を進めるなら、
世界平和への大きな貢献になる」と、「責任」という言葉を慎重に避けた。
昨年11月、東京都内で開かれたシンポジウムでは、
初来日した犠牲者の遺族、李鳳琴さん(69)が、
「殺された父は普通の庶民だった。
軍国主義が滅び、日本が大きな変化を遂げた今、
日本政府にはきちんと謝罪してほしい」と訴えた。
「悪魔の飽食」を書いた森村さんも、
「(軍事力を背景に覇権主義を強める)今の中国は、
かつての日本に似ている。
我が国が行った戦争犯罪、人間性の喪失を隣国に繰り返させてはいけない」、
中国で保存活動を進める意義を強調。
◆医学界も取り組み
ヒトラー政権によるユダヤ人迫害が行われたドイツでは88年、
ベルリン医師会が医師の責任を認め、行為を謝罪する声明。
日本の研究グループ「15年戦争と日本の医学医療研究会」幹事長の
刈田啓史郎・元東北大教授(生理学)は、
「日本の医学界はまだ道半ば」
全国の医師らが09年、「戦争と医の倫理の検証を進める会」を設立。
今年4月9日、日本医学会総会に合わせ、国際シンポジウムを東京大で開く。
刈田さんは、「戦後65年以上たって、まだ総括ができていないのは残念だが、
医学教育の場で、731部隊の行為を教える例も出始め、
これからの若い医師に期待している」
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◇731部隊
中国東北部(旧満州)を支配した関東軍の細菌戦部隊
「防疫給水部」の別称。
1933年に前身が活動開始。
ハルビン郊外の本部に軍医ら約3000人が勤務、
南京などに4支部があった。
ペスト菌などの細菌兵器や毒ガスを開発、連行した中国人らに
人体実験を行い、犠牲者は3000人以上。
感染実験の後、凍傷や銃弾貫通実験を行うなど、
死亡するまで「効率的に」次々と実験を重ねるなど残酷で、
多くの研究者も参加。
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2011/01/11/20110111ddm016040002000c.html
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