(読売 4月28日)
「周囲のバックアップには、本当に感謝しているわ」。
スラリと伸びた長い手足。シンクロナイズド・スイミングの
ソロの女王として世界に君臨するナタリア・イーシェンコは静かに話す。
国際大会で優勝したロシアのスポーツ選手への報酬はすさまじい。
五輪の金メダル、世界選手権優勝クラスだと、
30万ドル(約3090万円)が手渡され、
さらに時価5000万円はするというモスクワの高級マンションが与えられる。
イーシェンコ本人は語りたがらないが、2006年のワールドカップで
優勝した彼女が、それに匹敵する報酬を得たのは、間違いない。
報酬は、どこから支払われるのか?
ロシア・シンクロ協会のイーゴリ・カルタショフ副会長が事情を説明。
「プーチン大統領が知り合いの企業家たちに頼んで、金を出させる。
企業家たちも大統領に言われると、嫌とは言えない。
仕事がしにくくなるから」。
豊富なエネルギー資源を背景に、空前の好景気に沸くロシア。
専用のジェット機を持ち、高級車を乗り回す
新興の企業家たちが選手をサポート。
ロシアは、シンクロで圧倒的な強さを誇っていた。
五輪では2000年以降、金メダルを独占。
高い芸術性が強さの秘密。
84年のロサンゼルス五輪で銅メダルを獲得し、
現在国際審判員を務める本間三和子(旧姓元好)・筑波大准教授は、
「私が今まで見てきた演技の中で、背中がゾクッとしたのはロシアだけ」。
切れ目のない優雅な所作と音楽にあった動き。
歴史的に数多くの作曲家、演奏家を生みだし、
バレエやダンスの伝統を持つ国。
「あの芸術性は、他国には絶対にマネできない」。
ロシアには、もう一つの“伝統”がある。
全国から5~7歳の優秀な選手を集め、徹底的な英才教育を施す。
年代ごとにふるいにかけ、生き残ったエリートだけが代表チームに入れる。
「まさに共産主義的な選手育成法と言える。
ソ連邦崩壊後、この育成法はいったん中断したんだけど……」。
復活させた張本人のイーゴリ副会長はニヤリと笑った。
政治体制が変わっても、脈々と受け継がれた芸術家気質。
共産主義時代に生まれたスパルタ教育法。
現在の成長経済を背景にした強力なバックアップ態勢。
シンクロの強さは、激動の国ロシアを象徴。
輝く金髪に青い瞳。
「ええ、もちろん私は現政権を支持するわ」。
まだ22歳のシンクロの女王は、ためらいなく言い切った。
http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080428.htm
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