2010年7月3日土曜日

健康格差 日英の現場(6)「避けられる死」防ぐ

(2010年6月25日 読売新聞)

健康格差問題について、日本福祉大教授(社会疫学)の
近藤克則さんに聞いた。

--健康格差とは何か?

所得や教育歴、職業階層などが低いほど、健康状態が悪い
不平等のこと。
国内の高齢者約3万人を調べた調査では、低所得者ほど
不眠やうつが多く、死亡・要介護状態になる人も多い。

--なぜそんな格差が生まれるのか?

一つは貧困。
標準的な生活が営めない人の割合を示す相対的貧困率は15・7%、
経済協力開発機構(OECD)加盟30か国中、日本は4番目に多い。
貧しく、学歴が低いほど、喫煙や偏った食生活など、
健康に悪い生活習慣が増える。
病院に行くのを控える傾向も。

心理的なストレスや対人関係の貧しさの影響も重要。
ストレスは、免疫力を低下させ、ホルモン分泌や自律神経の働きを
狂わせる。
心筋梗塞や脳卒中、がんなどの危険も高まる。
一人暮らしや閉じこもりは貧しいほど多いが、
社会的に孤立していると死亡率が上がる。
人は、社会的な動物。

--何が一番の問題か?

人生のスタートラインから、自分の努力では変えられない
不平等があることが大きな問題。
貧しければ、母体の栄養状態などの影響で、
低体重児の可能性も高まる。
教育の機会も限られ、就職や結婚にも影響する。
所得や老後の年金にも差が出るなど、不利が不利を呼ぶ形で、
死亡率にまで影響が出る。

--低所得者層だけが問題か?

安定した収入がある公務員同士でも、地位が低く、仕事の裁量の
幅が少ない層ほど、死亡率が高いとのイギリスの研究。
貧困層だけの問題ではない。

格差が拡大し、人と人とのつながりが希薄になれば、
社会的なストレスが増え、死亡率を高める。
日本で、社会格差による死亡者増は年間2万3000人。
格差の拡大は、社会全体の健康水準を下げる。
労働力の損失による経済的なマイナスも大きい。

--イギリスでは、雇用や教育など幅広い対策が取られている。

健康格差には、失業や教育、住宅、地域環境など
多くの社会的要因がかかわっている。
もともとの病気へのなりやすさに差があり、
医療政策だけでは不十分。
企業や寄付や有志に支えられた慈善団体、地域住民なども
重要な役割を担っている。

--日本はこれから、どのような対策をとる必要があるか?

健康格差による死は、「避けられる死」。
WHO(世界保健機関)総会でも、健康格差是正が決議。
日本も、〈1〉子どもから高齢期までの生活改善、
〈2〉根本原因である社会経済格差の是正、
〈3〉対策を練るのに必要な実態の把握や研究の推進、
というWHO勧告に従うべき。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/6/25/122096/

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