(読売 5月29日)
米国の陸上五輪代表選考システムは、明快。
選考会で上位3人に入ればいい。
多様な価値観の渦巻く移民の国。
単純明快な一発勝負の結果は、誰もがすっきり受け入れる。
百メートルは、「誰が最速か」を即決してくれる、最も注目を集めるメーンイベント。
全米陸連のクレイグ・モズバック前CEO(最高経営責任者)は、
「スピードは、米国の文化。広大な国家が機能するには、
情報や物の伝達などすべての面で、スピードは欠かせない。
だから短距離も米国の文化、伝統となった」。
しかし、ドーピング(禁止薬物使用)は、
明快、公平に「最速」を決めるレースをぶち壊しにする。
「我々が望むのは、科学的に確信的にドーピングの事実を見つけ出し、
裁判所などではっきりさせることだ」。
全米陸連のビル・ロー会長は、抜き打ちテストの増強を
米国反ドーピング機関(USADA)に要請していることを明かし、
北京五輪で薬物使用が発覚した場合には、
4年後の五輪には出場させない厳罰方針を採ることも明言。
検査、罰則の増強は緊急課題。
しかし、それだけで霧は晴れるだろうか?
テキサス大のジョン・ホバマン教授は、「検査は改善したが、
その先を行くクスリも生まれる。友人の科学者も、
検査ですべてを解決する希望はないと常々指摘する」。
宇宙センターで知られる土地にある、テキサス州のヒューストン大学。
午前9時、小柄な老人がトラックに現れた。
カール・ルイスを育てたトム・テレツ氏。
75歳のボランティアコーチは、休む間もなくグラウンドを右へ、左へ。
手が空いたのは昼過ぎだった。
「全員がドーピングを疑われる状況では、まずはお金をかけて
検査の精度を上げるしかない」
ドーピング対策について、そう答えると、続けた。
「日本人は絶対使わないだろう。恥を知っているから。
米国人はお金のために使う。悲しいね。
ルイスはクスリなしで記録を作り、スポーツ環境は以前より良くなった。
なぜクスリに手を出す必要があるのか」
米短距離界を栄光に導いたストイックなまでに勤勉な老コーチは、
立ちっぱなしで30分以上熱く語り、嘆き、
昼食も取らずに、再びグラウンドへ向かった。
ドーピング問題の根っこに横たわる、ごく少数者のモラルの喪失。
老コーチを嘆かせる心の問題を、解決する方法はあるのか。
http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080529.htm
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