2008年7月2日水曜日

[第2部・ブラジル](下)W杯至上主義 崩れる

(読売 6月20日)

ブラジルが、いまだに五輪で勝てない理由として、
多くの同国サッカー関係者が指摘するのが、ワールドカップ(W杯)の存在。

「ブラジル人の最大の関心事はW杯で、普段はサッカーなんか見ない
おばさんだって熱狂する。五輪は、メディアで成績を気にする程度」
選手で2度、監督、コーチとしても2度のW杯優勝を経験し、
3位だった1996年アトランタ五輪監督も務めたマリオ・ザガロ氏(76)。

国中がお祭り騒ぎになるW杯に比べ、84年ロス五輪でプロが解禁され、
年齢制限もある五輪への関心は低く、それがチーム作りにも影響。

しかし、その関心度も近年、着実に変わってきた。
フル代表と五輪代表を、ドゥンガ監督とともに指揮する元鹿島の
ジョルジーニョコーチ(40)は、「自分が出た88年ソウル五輪では
重圧はなかったが、今は勝てないことで国民のイライラが募り、
期待や注目につながっている」。

注目されなかったタイトルは、逃し続けたことで価値を高め、
国民の期待値も上がった。
そんな空気は、若い選手の意識も染めつつある。

五輪代表の有力候補で、サンパウロFCのMFエルナネス(23)は、
「普通のブラジル人なら、W杯でのプレーを夢見ると言うだろうけど、
僕は五輪出場が夢だった。
それは、ブラジルが一度も取っていない金メダルを、
自分が初めて手にしたかったから」

父が地方都市、レシフェのサトウキビ加工工場で働いていたエルナネスは、
「ボールが買えなくて、空き缶でサッカーをしたりして創造性を磨いた」
という貧しい層の出身。
14歳で地元クラブに見いだされ、16歳でサンパウロFCへ移籍。
貧困からはい上がった、ブラジルの典型的なトップレベルのプロ選手。
そんな選手が、「W杯より五輪」と明言。

W杯至上主義だったブラジルサッカー界の価値観は、
確かに変わり始めている。

94年W杯で、ドゥンガを主将としたチームを優勝させたザガロ氏は、
「ドゥンガはよくやってるし、金のチャンスは十分ある。
だけどね、サッカーには運ってやつも大事なんだ」。

価値観の変化で、ブラジル五輪代表の「運」も変わるか。
8月の北京で、答えは出る。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080620.htm

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