(Medscape 11月28日)
患者に、自分の循環器系リスクを教えるという簡単な手法が、
患者に医学的アドバイスを順守させ、脂質目標値を達成させるのに
有効であることが最新研究[1]で示された。
循環器系疾患(CVD)発現のリスクが高く、症状がまだ出ていない患者には、
「血管年齢」という分りやすい概念が心に響く。
Dr Steven A Grover(マギル大学)は、
「我々は、マギル循環器系健康向上プログラムを長年取り組んできた。
患者自身のリスクの内容と、減量・運動・脂質降下薬服薬によって、
どれほど変化するのかを患者本人に示してきた。
なんらかの治療を、特に血圧やコレステロールといった症状の出ない
病態に対して始める必要がある。
この手法は、治療の進捗状況を患者に説明するのに有用」。
Grover博士らは、3053例を対象にした
「不均一な患者群のコンプライアンスと知識向上のための循環器系健康評価
(Cardiovascular Health Evaluation to Improve Compliance and Knowledge Among Uninformed Patients: CHECK-UP)」の結果を発表。
3000例以上の患者のうち、12カ月後でも試験に残っていた者は2687例。
循環器系疾患を発現する確率を、コンピューターで出力。
CVDを有している被験者の確率は、循環器系余命モデルを用いて算出。
CVDを有していない被験者の確率は、フラミンガムのリスク推測値を用いて
今後8年間でCVD発現のリスク割合、循環器系余命として表現。
2つ目の手法は、患者のリスクを、冠動脈疾患および脳卒中リスクを勘案して
算出した患者の余命と、同年齢・同性の平均余命との差を、
患者の年齢から引いて算出する「血管年齢」で表現。
被験者を、従来型の治療群と、患者のリスク像を記した
コンピューター出力紙を見せる群とに分けた。
12カ月間は、脂質と血圧を測定し、3カ月毎に担当医師の下に来させた。
12カ月後の患者の低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールと
総コレステロール/高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール比の低下の幅は、
両群間で差はなかったが、試験開始時の脂質濃度で調整すると、
試験期間を通じてリスク像を見せられていた患者群の方が有意に大きい。
常日ごろから自分のリスク像の変化を見せられていた患者は、
脂質目標値に達する傾向も強い。
このことは、試験開始時の脂質像がもっとも悪かった層で特に顕著。
血管年齢は、脂質目標値の達成の最も強い予測因子の一つであり、
フラミンガムリスクよりも強力。
「最も強く作用したのは、年齢差。
血管年齢が実年齢からどのくらい離れているか、だ。
年齢差が大きいほど、リスク像への影響が大きかった。
フラミンガムリスクが高・中・低の場合を調べても、影響は小さかった。
実際に患者のモチベーションになったのは、血管年齢の一行だけ」
CHECK-UP試験に関連する2つの解説記事が、
循環器系リスクについてのコミュニケーションに伴う微妙な問題について考察。
Dr Rod Jacksonと Sue Wells(オークランド大学、ニュージーランド)[2]は、
リスク因子ではなく、リスクを管理するという考え方が
医師にあまり理解されていない。
「医師のほとんどは、高血圧と高脂血症の診断と治療のやり方を
教わっているが、リスクに基づいた手法では、診断しない。
また、治療法のほとんどは個々のリスク因子を標的にしたもので、
血圧や血中脂質濃度の測定・治療を中心にしないというのは難しい。」
しかし、大きな障害は時間。
CHECK-UP試験で、定期的に循環器系リスクを計算し、
患者に伝える時間は、多忙な医師には捻出できない。
リスク計算と患者の診療記録とを結びつけるコンピューターシステムの
ようなものがあれば、その作業を手早く済ませられる。
ニュージーランドでは、PREDICTというコンピューターシステムが
すでに45,000例の患者を対象にこれを実現。
Grover博士らの血管年齢の考え方は、
「予測された循環器系リスクを、患者と医師にとって意味のあるものに
移し替える基準として正しいことが証明される」
2つ目の解説記事[3]では、Dr Charles B Eaton(ブラウン大学)が、
CHECK-UP試験は定期的な外来診療の意義を間接的に検証。
2つの試験群での試験主要評価項目の差が、
著者らが報告した値よりも大きくならなかったのは、
非介入群の患者でも医師と定期的に会うことで
治療目標の達成が促進されることが理由。
しかしEaton博士は、「循環器系リスクが高い患者のうち、
1年後の脂質目標に達した者が45%から66%しかいなかった。
大きな治療のギャップがまだ存在している」
Grover博士は、今回の試験は正しい方向性に向けた一歩に過ぎない。
一番重要なのは、患者も取り込んだ新しいやり方を発見すること。
「臨床試験ではよく効く薬でも、実生活の中では同じように作用しない。
長期治療の状況では、患者自身が専門家に。
無症状の病態について、患者はどういう行動なら脂質のコントロールができ、
どういう行動なら脂質をコントロールできなくなるかを知っている。
患者を引き込むことができれば、
知識はとても強力な道具になりうることを利用できる」
血管年齢の考え方は、医師をも深く共鳴させるとGrover博士は考えている。
過去10年、カナダ循環器学会の展示場で血管年齢測定を行っている。
「医療専門家が、自分の数値がどのように変化したかを確認しに
再度やって来る。それには驚いた。彼らは、測定が目的で列を作るのだ」
1. Grover SA, Lowensteyn I, Joseph L, et al.
Patient knowledge of coronary risk profile improves the effectiveness of dyslipidemia therapy: the CHECK-UP study: A randomized controlled trial.
Arch Intern Med. 2007;167:2296-2303.
2. Eaton CB.
Using cardiovascular age equivalent to close the treatment gap for dyslipidemia.
Arch Intern Med. 2007;167:2288.
3. Jackson R, Wells S.
Prediction is difficult, particularly about the future.
Arch Intern Med. 2007;167:2286-2287.
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=SPECIALTY&categoryId=580&articleLang=ja&articleId=63553
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