(サイエンスポータル 2008年2月5日)
ポスドク問題に関する議論があちこちで交わされている。
大学院生に、年額最高240万円を支給する研究奨励金制度の発足を
東京農工大学が公表。
東京大学、東京工業大学も、大学院生支援策を打ち出している。
いい学生が集まらないと大学の存立基盤を揺るがしかねない
少子化、国際化の時代だ。
問題は、「大学院は出たけれど」の方だろう。
「今、求められる研究者像と人材育成」という
産業技術総合研究所主催のシンポジウムが開かれた。
日立製作所会長で経団連副会長や総合科学技術会議議員を務めた
経験も持つ庄山悦彦氏が、講演者の1人として経団連産業技術委員会の提言
「イノベーション創出を担う理工系博士の育成と活用を目指して」に触れた。
「入口」、「研究教育」、「出口」の3段階に分け、
大学、政府、企業がやるべき人材育成策が掲げられている。
「出口」のところの提言は次のよう。
大学に対して「博士号取得者に対する就職支援の充実」、
政府には「ポスドク等が活躍できる産学協同の場の提供」、
企業には「優秀な博士課程取得者を積極的に活用」が求められている。
「優秀な人材が博士課程に進学しない」→「博士人材の付加価値が不明確」→
「企業が博士人材の採用に消極的」という悪循環。
経団連産業技術委員会のそんな現状認識に基づく提言。
問題になるのは、「優秀な人材」とは何か。
大学、政府、企業がそれぞれ全く別の「優秀な人材」像を描いていたら、
この提言はおそらく効果が期待できない。
日経新聞4日朝刊「教育面」に、
坂東昌子・日本物理学会キャリア支援センター長(愛知大学教授)の
「基礎科学復権へ活用を―ポストドクター本当に多すぎるか」という寄稿。
結論は、次のようだ。
「真のイノベーションを創生するには、基礎力が問われる。
基礎科学の復権こそ、科学技術立国を目指す日本の喫緊の課題であり、
そのためにポストドクターはもっと有効に活用されてしかるべき」
坂東氏は、途中で「物理学に限って論じてみたい」と断っているが、
「昨今の高等教育政策の流れは、基礎重視から応用重視へと大きくシフト」し、
「戦後の日本の高い科学水準を支えたのは、
基礎力のある学生を育てたことだったのに、その伝統は消えてしまった」
という批判にたった主張であることは明白。
坂東氏にとっては、基礎科学の力を十分身につけた人間こそ、
「優秀な人材」ということだろう。
これが政府、企業の期待する「優秀な人材」像と一致するなら、
ポスドク問題の解決も心配することはないように見えるのだが…。
http://www.scienceportal.jp/news/review/0802/0802051.html
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