2008年2月7日木曜日

産総研の新しい試み

(サイエンスポータル 2008年1月28日)

産業技術総合研究所の新しい試みが関心を集めそう。
新しい学術ジャーナル「Synthesiology-構成学」の創刊と、
「産総研イノベーション上級大学院」の設立
「Synthesiology-構成学」は1月に創刊号が発行、
「産総研イノベーション上級大学院」は4月開校の予定。

社会のためになる科学技術を目指すなら、
研究論文になりにくい努力の方がむしろ重要。
産総研のようなところこそ、率先してそうした取り組みをすべきだ―。

吉川理事長の主張を簡潔に表現すれば、このようになるだろうか。
この主張を実行に移すため、産総研では「本格研究」という
基本的な研究開発の意義付け、枠組みが明確に。
大学などの研究者たちの多くが取り組む研究と、
商品価値を持つ製品を生み出す研究との間には、
「死の谷」とも呼ばれる大変な壁。

企業の技術開発にあたる人々は、日常的にいやでも直面せざるを得ない
現実である一方、大学や公的研究機関で研究に従事する研究者たちは、
突き詰めて考えようとしなければしないでも済んできた根本的課題。

産総研の「本格研究」において、重要な位置を与えられているのは
「第2種基礎研究」と名づけられている領域。
伝統的な基礎研究を「第1種基礎研究」と定義し直し、
その枠内に収まらない基礎研究を指す。
「未知現象より新たな知識の発見・解明を目指す研究」(第1種基礎研究)に対し、
「経済・社会ニーズへ対応するために異なる分野の知識を幅広く選択、
融合・適用する研究」(第2種基礎研究)という仕分け。

「本格研究」というのは次のように説明。
「知識・技術の発見・発明から製品化の間に横たわる
『悪夢(死の谷)』を乗り越え、研究成果を迅速に市場へと展開させるため、
幅広い知識・技術を選択し、融合・適用することにより
新たな成果を生み出す『第2種基礎研究』を軸に、
『第1種基礎研究』から『製品化研究』までを連続的・同時的に展開する
産総研独自の研究方法」

なぜ、「Synthesiology-構成学」なる新しい学術ジャーナルを、
一独立行政法人が刊行しなければならないのか。
伝統的基礎研究の枠に収まらない「第2種基礎研究」に、
いくら力を入れても研究成果(論文)を受理してくれそうな
学術誌が見当たらないから、ということのようだ。
そもそも、Synthesiology(構成学)も造語。
「研究成果を社会に活かそうとする研究活動」(第2種基礎研究)の成果を
「知として蓄積することを目的とする」のが新しい学術ジャーナルで、
「研究活動の目標の設定と社会的価値を含めて、
具体的なシナリオや研究手順、要素技術の構成・統合のプロセスが
記述された論文を掲載する」。

一方、「産総研イノベーション上級大学院」は、
任期付き雇用形態を含む研究所の若手研究者らを、
従来の狭い意味での基礎研究の枠にとどまらず将来、研究機関、企業
いずれの場でも活躍できる人材に育てるのが狙い。
成果は、「Synthesiology-構成学」に投稿、きちんと評価を受けさせる。
創刊された学術ジャーナルとは補完関係にある。

「SCIENCE」、「NATURE」に代表される欧米科学誌に
論文が掲載されることをまず願う。
これが大方の日本人研究者の姿に見える。
産総研の新しい試みは、果たして日本の研究開発のありようを
変えることができるだろうか。

http://www.scienceportal.jp/news/review/0801/0801281.html

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