(読売 9月10日)
大学院に通って、指導スタイルを一変させた教師がいる。
「先生とは一緒に活動したくありません」
私立立教新座高校の演劇部顧問、高瀬修司教諭(41)が、
部員の代表から言われたのは、4年前の夏休みの部活動中だった。
予想もしていなかった言葉に、ショックを受けた。
大きな大会で、何度か好成績を収めていた。
指導も熱心に行い、規則では午後6時までとされる活動時間も2時間延長。
舞台装置もどんどん自分で作った。
担当の国語の授業でも、自分のやり方で生徒を
ぐいぐい引っ張る熱血教師だった。
生徒からは、「火の玉」と呼ばれたことも。
だが、次第に歯車は狂い出した。
部活も授業も、同じように指導しているのに、うまくいかない。
「自分が悪いんじゃなく、生徒が悪い。今年の生徒はだめだ」。
心のどこかで言い訳するようになり、口をついて出るのは
「なんでできないんだ」、「そうじゃないだろう」と否定的な言葉ばかり。
生徒の心が離れていくのは当然だった。
「このままでは心がおかしくなってしまうかも」。
そんな風に思い詰めたころ、体が悲鳴を上げた。
学校で倒れ、入院。大手術を受けて生死の境をさまよった。
療養期間中は、自分の教員生活を振り返る貴重な時間になった。
復職を前に、「どうしても、もう一度学びたい」と校長に申し出た。
なぜ教壇に立ちたかったのか、教師として何をすべきだったのかを
見つめ直したい気持ちからだった。
進学先に選んだのは、株式会社「栄光」が運営する日本教育大学院大学。
特例として、受け持ち時間を減らしてもらい、
2年前の4月、1期生として入学。
体調は万全ではなかったが、
「これまで責任転嫁していた生徒に申し訳ない」という一心で通い通した。
「教育とは何のために、誰のためにあるのか」。
テクニックや教科の専門性を学ぶ講義よりも、
教師の役割を説く講義が心にしみた。
「自分に足りなかったのは、生徒の声を聞く余裕。
教師が教え込むのではなく、生徒が主役になる授業をしよう」。
勉強を進めるうちに、思いを新たにした。
この夏休み、演劇部の部室では、部員が議論をするのを
見守る高瀬教諭の姿があった。
「同じ目線で話すのがいい。僕らに任せようとしてくれるのが分かる」と
1年生部員の秋山肇君(16)。
授業でも、ディスカッションを多く取り入れ、自分は聞き役にまわる。
「自分と他人の感じ方を比較できて新鮮だった」、
「行き詰まっても、話し合っているうちにどんどんいい案が出てきて面白かった」。
生徒からそんな前向きな感想が寄せられた。
「生徒は、何かの拍子に素晴らしい力を出す。
その力を引き出すのが教師のつとめだ」と確信。
かつての自分の指導法に、NOを突きつけてくれた卒業生に心から感謝している。
◆教職大学院と専門職大学院
今年度から出来た教職大学院は、法科大学院などとともに
高度な専門的職業人養成を目指した専門職大学院の一つ。
元学校長ら実務家教員を4割以上置く。
日本教育大学院大学は、構造改革特区制度を使って2年早く開学。
教職大学院には当たらないが、専門職大学院の一つで、
実務家教員を3割以上置く。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080910-OYT8T00192.htm
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