2008年9月16日火曜日

北澤 宏一 氏「国際競争力は本当に衰えているか?」

(サイエンスポータル 7月25日)

北澤 宏一 氏(科学技術振興機構 理事長)

日本の国際競争力が衰えた、とよく言われる。
そもそも国際競争力とはなんだろう?

国境線に立って日本と海外とのやりとりを見たならば、
実は日本は非常に素晴らしい国だと気付く。世界の最優良児だ。
バブル経済の頂点にあった1986年以来、不況の90年代を含め、
多少の短期的凹凸はあるが、貿易黒字10兆円を22年間も続け、
2007年で250兆円というダントツ世界1位の海外純資産を築いてきた。

この資産は融資あるいは投資され、
日本は07年には16兆円の所得収支黒字を得ている。
貿易黒字10兆円と合わせると26兆円、
国民一人あたりにして年間21万円の黒字。
自分が毎年金利だけで21万円も払うことを考えてみれば、
この巨額さが分かる。

世界最大の「投資国」日本が浮かび上がる。
海外投資は、ここ数年増加の速度を増している。
日本の企業の利益が増えているからだ。

一方、国内に目を転じると、若者たちの非正規雇用が大きな問題。
国民に十分な職場が提供されず、個人金融資産は
2000年以降むしろ減り始めている。
GDP(国内総生産)は、90年以来500兆円のまままったく増えていない。
にもかかわらず、多くの企業はここ数年、活発な海外活動によって
史上空前の利益を出している。

政府は、国民に多額の借金をしている。
政府はリーダーシップを失い、国民は閉塞感の中に置かれたまま。
これは、新しいタイプの日本病だ。
企業は国内を見捨て、利益を海外で再投資、蓄積しているため、
国内の投資は不活発。

その昔、地方から大都市へ、特に冬場は出稼ぎが多くあった。
この日本病は、「出稼ぎの留守宅」のようなもので、
父親が留守宅に魅力を感じていない。
科学技術に革新が起きると、社会に新たな産業が起こり、
社会の課題が解決されると考えられてきた。

しかし、現在の日本病を解決するには、もう一つの工夫が必要。
良い技術が開発されたとき、その技術をまず日本国内で
適用してみようと考える企業が必要。
メーカーは、「日本は法人税が高いので、海外で活動する方が楽」。
彼らが国内投資を控える理由である。

日本に対するイメージは、国内と海外とでまったく対照的。
この未体験の日本病は、外国人から見れば、処方は簡単である。
留守宅に取り残された日本政府と国民は、
企業という父親がもっと繁く家に帰ってくるよう工夫すればよい。
ただし、留守宅改造は、父親が元気なうちにやる必要がある。

◆北澤 宏一 氏のプロフィール:
1943年長野県飯山市生まれ。東京大学理学部卒、同大学院修士課程修了、
米マサチューセッツ工科大学博士課程修了。
東京大学工学部教授、科学技術振興機構理事などを経て
2007年10月から現職。日本学術会議会員。
専門分野は物理化学、固体物理、材料科学、磁気科学、超電導工学。
高温超電導セラミックスの研究で国際的に知られ、80年代後半、
高温超伝導フィーバーの火付け役を果たす。
著書「科学技術者のみた日本・経済の夢」など。

http://www.scienceportal.jp/highlight/0807.html

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