2007年12月27日木曜日

ヒューマンファクター 失敗は創造の源?

(東京新聞 2007年12月11日)

スイッチの切り忘れ、弁の操作ミス、排水ホースのつなぎ間違い…。
厳密な運転や保守管理が求められる原子力発電所で、
人のミスがなくならない。
重大事故につながる“芽”だけに、電力事業者は対策に懸命だ。

「ヒューマンファクター(人的要因)」をテーマに、
福井県で開かれた国際シンポジウムでは、
個人のミスに目を向けるだけでなく、組織全体の取り組みや
安全文化を育てることの大切さが強調された。

「発生件数、発生率(放射線管理区域内一万時間あたり)ともに
減る傾向にあるんですが、なかなかゼロというわけには」。
東京電力原子力品質・安全部の福良昌敏部長は、
人的ミスをなくすことの難しさを明かす。

東電は、柏崎刈羽と福島第1、第2の3つの原子力発電所(17基)を持つ。
2004年からとりはじめたデータによると、全体的には減少しているが、
今年に入ってやや増加傾向。

最近でも、機器洗浄装置の排水ホースをつなぐ場所を間違えたり、
ポンプのスイッチ操作を誤ったりして放射能を含む水が漏れるなど、
作業員のミスが起きている。

原因をみると、最も多いのがコミュニケーション不足

指示を徹底しなかったため別の作業をしてしまう。
リスク予測不足も目立つ。
作業をやる前にこれをやればどういう影響が出るか、
という危機予知が不十分なケース。
この二つで、人的ミスの半分くらいを占めるという。

その背景には、「手順書の不備や人手不足、研修不十分など、
個人では対応できない要因がある」と福良さんは説明。
「人的ミスが発生しても、重大事故につながらない仕組みづくりが必要」。

これまで、ヒューマンエラー(人的ミス)は、
個人の資質や能力に起因するとみられがち。

しかし、最近では組織の問題や企業の安全文化にまで踏み込み、
ヒューマンファクターとして分析や対策に取り組むようになっている。

福井県美浜町にある原子力安全システム研究所で開かれた
国際シンポジウムでは、ヒューマンファクターについて
内外のさまざまな分野の専門家が報告や意見交換。

パリ鉱山大のエリック・ホルナゲル教授は、
安全性との関係でヒューマンファクターを見る場合、
「人間はマイナス要因」との見方から、
「有用な要因」という見方に変化してきた、と説明。

人のパフォーマンスには、効率性がいいときも悪いときも(変動性)あるが、
「失敗の原因となるだけでなく、工夫や創造性につながる成功の源でもある」。
「変動性をおさえ込むのでなく、組織として受け入れることが大切」と、
組織に柔軟さを求める。

吉田道雄熊本大教授(集団力学)は、
「安全の実現は、知識だけではできない。
意識が必要で、さらにそれが行動になって初めて可能になる。
ちょっとおかしいと現場の人間が感じたときにものを言える職場環境や
人間関係があることが重要」。

フランス原子力庁長官付顧問のジャック・ブシャール氏は、
ヒューマンファクターへの対応として「安全文化を醸成する」、
「経験をフィードバックして生かす」、
「小さなミスもきちんと分析して対策をたてる」、
「現場から管理者までそれぞれ責任を持って仕事をする」。

そして、「原子力の安全性は、社会的に極めて高い受容性が求められる」
として「最も重要なのは(企業の)透明性」と強調。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/technology/science/CK2007121102071251.html

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