2007年12月28日金曜日

特集:超高齢社会を生きる/シリーズ1 地域で認知症患者を支える

(毎日 12月2日)

世界一の長寿国であるわが国は、高齢者(65歳以上)が総人口の
21%以上を占める超高齢社会を迎えている。
現在、年間死亡者は100万人を超え、85歳になれば4人に1人、
120歳まで生きれば全員が罹患するといわれる認知症患者は160万人に。
2025年には、死亡者は160万人、認知症患者は300万人に。

介護保険制度はスタートしたが、こと認知症に関しては、
さらなる支援システムの構築が求められている。

新田國夫さんは1990年、国立市に「地域に根ざした医療」を
実践したいと開業。大学病院時代に消化器がんを専門、
末期がん患者の在宅医療を目指した。
しかし、認知症高齢者の家族からの往診依頼が多く、
認知症患者の在宅医療を行わなければならなかった。

住民の高齢化が、この傾向に拍車をかけた。
国立市の場合、要介護度2の認知症患者の84%、5でも50%が在宅、
どうしても家に引きこもりがちに。

新田さんは、積極的に外出する場を提供することが重要と、
宅老所やデイケア施設を開設したところ、たちまち交流の場となり、
利用者の療養意欲を高めることができた。
「寝たきりだった人の表情が、日に日に豊かになり、動作も活発になる。
認知症による行動障害も見られなくなった」。

現在では、新田さんは自ら“高齢者を診る総合診療医”と名乗り、
認知症を中心に在宅で過ごしている約50人の要介護者、要療養者の治療、
通院可能な認知症患者の電話での対応などに24時間体制。
「高齢者医療は、生活の中で診ることが大切。
在宅医療の成否は、基本的に生活を支える介護力にかかっている」。

この10年、認知症ケアの進展には目を見張る。
自然や地域とのふれあいが大切にされるようになった。
自分らしく暮らし続けることを支援するグループホームは、
介護保険のスタート時、全国で300に満たないが、現在は6000超。
新田クリニックが例にあげられるが、診療所を核に通所施設などが用意され、
患者、家族が交流する機会も増えている。
それを支えるための街づくりが、各地で進められつつある。

東京都は7月、認知症対策推進会議を発足。
東京都は、住民の流動化が激しく、高齢者の独居、
夫婦のみ世帯も急増し共助・自助の低下が著しい。
しかし、退職する団塊の世代を含めて人的資源には恵まれている。
地域社会に根ざしたNPOも多数ある。
商店街、交通機関、金融機関など日常生活を支える社会資源も身近に存在。

モデル地区として練馬区と多摩市を選定、
認知症になっても安心して暮らせる街のあり方を探る。
介護サービス事業者の地域支援へのかかわり方を探るモデル事業をスタート。

村田由佳・都高齢社会対策部在宅支援課長は、
「認知症を隠さなくてもすむ社会を目標に、地域の中で、
患者と家族を面で支えていく方法を考えたい」。

認知症・身体症状の双方の症状に応じ、
初期(軽度)の混乱期から終末期(みとり)まで、
QOL(生活の質)を維持する医療のあり方を検討。

新田さんは、「意思表示ができない認知症患者の身体の異常を
正しく診断することが、何よりも大切」。
例えば身体症状が、脱水症状や感染症によって引き起こされていることを
見落としてしまうと、回復の機会を逸するばかりか、
そのまま終末期に入ってしまう危険がある。

上川病院理事長の吉岡充さんは、
「高齢者のみとりには安らぎが求められるので、ユニット型医療施設が不可欠」。
ユニット型医療施設は個室が原則で、プライベート空間が確保。
看病に来た家族も泊まることができる。
医療スタッフも十分に配置され、10人程度の少人数単位の患者をケアし、
患者とスタッフの親密な交流も維持。
「終末期にはベッドからおりようとしたり、衣服を脱いで裸になるなどの
行動障害に対する適切な治療とケアが求められる。
食事・排せつのケア、清潔さを保ち抑制しないケアも必要。
両方に対応でき、最期まで患者のQOLの維持ができるのがユニット型医療施設」。

認知症300万人時代に備え、介護力を高めるための第一歩が踏み出され、
認知症の医療も新しい時代を迎えようとしている。
==============
◇「介護家族へも支援を」

アルツハイマー病と診断されてから8年、鈴木孝子さん(仮名)は娘と孫娘が介護。
過去には療養型の病院、介護老人保健施設を利用したこともあったが、
環境の変化からか暴れ、ベッドや車椅子に拘束されてしまい、
結局、娘宅に落ち着いた。

娘宅には、毎日午前、ヘルパーが訪れる。
週1回訪問診療を受け、週2回入浴サービスとデイケアを利用。
しかし介護度が5のため、孫娘は仕事をやめた。
鈴木家では、長期介護の経験から、家族介護に対する経済的支援や、
光熱費などを介護保険でカバーしてほしいと考えるようになった。
==============
◇人間性は、変わらない--記録映画『終りよければすべてよし』演出、記録映画作家・羽田澄子さん

『終りよければすべてよし』には、「人間らしく生きたい」という願いが集約。
オーストラリア、スウェーデンのケアと対比し、
今の日本に欠けているものが何かを教えてくれる。

演出の羽田澄子さんは、1986年作品の『痴呆性老人の世界』以来、
「高齢者が安心して暮らせる社会」をテーマに。
「認知症になって、たとえ知能が破壊されても、情緒は破壊されない。
だから、人間性は変わらない」。

ワンカットに含まれるメッセージ量は膨大で、
文章では表現できないことを伝えてくれる。

岐阜県にあるサンビレッジ国際医療福祉専門学校では、
羽田さんの『安心して老いるために』を教材に、介護のあり方を教えている。
「死は敗北ではないこと、人は死ぬということを理解して、
初めて人を救うことができる」。
羽田さんは、医学部の学生に、特に作品を見てほしい。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2007/12/02/20071202ddm010100064000c.html

0 件のコメント: