(毎日 7月30日)
主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)が7月7~9日、
洞爺湖畔のザ・ウィンザーホテル洞爺で開かれた。
地球温暖化という人類が直面する危機を回避するため、
首脳たちは何に合意し、どのような道筋を付けたのか。
日本は、議長国としての役割を十分に果たせたのか。
サミットを振り返りながら、来年12月の国連の気候変動枠組み条約
第15回締約国会議(COP15)に向けた今後の国際交渉を展望。
サミット首脳宣言は、世界全体の温室効果ガス排出量について、
「2050年までに、少なくとも50%の削減を達成する目標」を
中国、インドなど新興国を含む各国が共有し、
京都議定書に定めのない13年以降(ポスト京都)の
新たな削減枠組み交渉で採択するよう呼びかけた。
実現に向け、先進国が「野心的な中期の国別総量目標」を設定。
福田康夫首相は、「主要8カ国(G8)の中でもいろいろな立場があり、
違いを乗り越えながら共通の認識を示し、国連交渉に弾みをつける
貢献ができた」、数値目標設定に否定的な米国の譲歩を促した成果を強調。
各国の環境NGO(非政府組織)から、
「先進国自らがより高い目標を設けて、温室効果ガス削減を先導する
姿勢を示さなかった」と批判。
昨年の独ハイリゲンダム・サミットは、先進国の中期目標について言及せず、
「50年半減」という長期目標も、「真剣に検討する」との表現。
今回は、昨年の合意内容をいかに前進させ、新たな温室効果ガス削減の
枠組みを決める国際交渉に弾みを付けることができるか注目。
首脳宣言に、「G8が50年半減に合意した」と明確に盛り込まれず、
NGOから「米国の合意に、明言を避ける玉虫色の解決」と批判。
福田首相は、「米国を含むG8の合意を、当然の前提としている」。
中期目標について、具体的な数値に触れず、失望感が広がった。
サミットには、中国やインド、南アフリカ、ブラジルなど排出量の多い
新興国も招待参加し、地球温暖化問題で発言力を強めた。
メキシコを含む5カ国が、札幌市内で新興国首脳会合を開催、
「先進国としての努力姿勢が見られない」、
先進国に「50年に90年比80~95%減」などの高い目標を求める
「政治宣言」を発表。
ブッシュ米大統領が、世界の温室効果ガス主要排出国計16カ国を集めた
「主要経済国会合」(MEM)の首脳会合を、サミットに併せて開催。
しかし、新興国を含めた形で「50年半減」の長期目標に合意できず。
ブッシュ大統領は、排出量増加が著しい新興国の参加がなければ、
実効性がないと主張。
インドのシン首相は、「新興国といってもいまだ貧困問題を抱えている。
先進国が率先して責任を果たすべき」。
温室効果ガス増加について、産業革命以降、エネルギーを大量消費してきた
先進国に大きな責任があるとの立場。
先進国と新興国の溝が埋まらない現状に、潘基文国連事務総長は
「さらに前進が必要だ」と指摘。
01年の大統領就任の年に、京都議定書を離脱するなど
地球温暖化自体を否定していたブッシュ米大統領が
首脳宣言に合意したことについて、「8年間でここまで変わったのか」と
感慨深く語る日本政府関係者も。
◇「途上国参加」認識に意義--東京大先端科学技術研究センター教授・澤昭裕さん
--サミットの評価は。
先進国に共通する目標は、中国を中心とした成長途上国を何らかの形で
排出削減に関与させること。
先進国が一体となって、京都議定書に続く次期枠組みでは
途上国を加える決意表明をしたことがサミットの最大のポイント。
長期目標や中期目標に進展があるかどうかは、今回の本質ではない。
途上国参加の後に来る話。
途上国が貢献することで、初めて長期目標が達成できるという認識が共有され、
文書に入ったことは意義が大きい。
先進国間に分裂がない状況を作ることが大事、それができただけでも成功。
福田首相は、粘り腰の外交を展開し、よくまとめた。
国際的にもこうした見方が大勢。
環境派の人から見れば全く足りないが、環境・経済の両立派から見ると、
パーフェクトに近い出来。
--途上国は削減の枠組みに参加するでしょうか。
中国やインドにとって、省エネやエネルギー生産性の向上は国益にかなう。
排出総量に枠をはめることはのまないが、先進国の技術支援と資金を
引き出せ、生産性も上がることは、やってもいいと思い始めている。
産業部門に限定した形ならば、乗ってくる可能性はある。
--国内排出量取引制度が導入される方向に進んでいますが。
日本には、石油・石炭税という事実上の環境税があり、省エネ法がある。
欧州連合(EU)は、環境税導入に失敗し、省エネ法はない。
だから、排出量取引制度が作られた。
米国も税、省エネ法ともない。
日本は二つとも持ち、自主行動計画もある。
まずは既存の制度の強化で対応できないかを優先的に検討すべき。
排出量取引を導入すると、最終的にはエネルギー価格に転嫁。
低所得層の人たちにとって、光熱費の割合は高い。
所得の低い人ほど負担が大きいという逆進性の高い政策に。
低炭素社会のために月々いくら負担してもよいかという質問に、
6割の人が1000円未満と答えており、全く負担したくない人も2割弱。
導入に伴う国民負担の増加が明らかにならなければ、
国民は正確な判断ができない。
政府や政党の説明責任が問われている。
--日本が提案したセクター別アプローチをどう考えますか。
セクター別アプローチは、データを集めるのが難しい。
国連の組織として、日本に省エネデータセンターを設置するよう提案。
これまでの抽象的な提案から、交渉方式や新議定書の具体案を出す時期。
国内対策、国際交渉を全体として俯瞰できるスタッフを、
首相の周りに集めることが必要。
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/07/30/20080730ddm010010120000c.html
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