(毎日 7月28日)
船体の安定のため取り込むバラスト水が移動し、貿易相手国の生態系を
遺伝子レベルでかく乱する実態が徐々に分かってきた。
生態系保護のため、バラスト水処理を義務づける国際的な規制が
来年から始まる予定だったが、処理装置の開発の遅れなどで
開始時期はずれ込む見通し。
「予想より海の生態系が乱されていた」。
バラスト水が生態系に与える影響を研究している
神戸大内海域環境教育研究センターの川井浩史教授は、
自身の調査結果をみてそう話す。
バラスト水は、タンカーなどの船舶を安定させるために出港時に積み、
相手国の港やその沖合で荷物と引き換えに捨てられる海水。
世界中の年間移動量は100億トンとの推定、
特に資源輸入国の日本は大量のバラスト水輸出国として問題視。
出港地の生物が運ばれ、相手国の生態系を乱す恐れ。
欧州の貝が、米国・五大湖で大繁殖した例や、南米でのコレラ大流行が、
バラスト水の移動と関連。
バラスト水の影響を明らかにするため、川井教授らは、
日本や貿易相手国で採取したワカメ、アオサ・アオノリ類、シオミドロ類の
海藻などの遺伝子を調べ、生物が他国に移動しているかどうかを調べた。
その結果、米カリフォルニアやメキシコ、豪州タスマニアで採取した
ワカメは、本州から運ばれた可能性が高かった。
ニュージーランドの北島と南島では、遺伝子のタイプが異なり、
南島では韓国・中国タイプと北日本タイプの遺伝子が交雑。
三河湾や大阪湾の海域によって、アオサ・アオノリ類で、
国内でこれまで確認されなかった種類が優勢に。
川井教授らは、微生物調査によりバラスト水タンクで生物が
移動できる場合があることも確認。
「世界の貿易は活発になる一方。
早急に手を打たないと、生態系にとって手遅れになってしまう」
◆条約の批准進まず
バラスト水の被害を防ぐため、国際海事機関(IMO)が04年に
採択したのが、バラスト水管理条約。
09年から一部の新造船で、17年からすべての国際船舶で、
処理装置の設置を義務づけ。
条約がいつ発効するか、見通しが立たない状態に。
「30カ国が批准し、合計商船積載量が世界の35%以上」が
発効の要件だが、4月までの批准国はスペイン、ノルウェーなど14カ国、
積載量3・55%に過ぎない。
批准が進まない最大の理由は、処理装置の開発の遅れ。
日本政府も、「処理装置が市場に供給できない状態では、批准できない」。
処理基準は植物、動物のプランクトンやコレラ菌、大腸菌などの
細菌ごとに決められており、基準以下に抑えられる技術だと
証明できなければ、IMOや締約国から処理装置として認可されない。
出港直後に薬剤やろ過で処理したとしても、
長い航海の間に細菌類が再増殖する危険性がある。
船の中を無菌状態にはできない。
逆に、貿易相手港で処理すれば物流に影響する。
バラスト水の処理には時間がかかるため、
港湾で待機する時間が長くなる。
東京大の福代康夫・アジア生物資源環境研究センター教授は、
「素早く処理するために強い薬剤を使えば、周囲の環境に影響が出る。
海水に含まれる生物が相手なので、一筋縄ではいかない」と
技術開発の難しさを説明。
IMO関係者の間では、規制の開始時期を1~2年程度、
先送りせざるを得ないとの意見が強い。
◆処理装置の開発急ぐ
課題を克服した処理装置が開発されつつある。
日立プラントテクノロジーと三菱重工は、プランクトンや菌類を薬剤で凝集し、
さらに磁気分離技術を組み合わせて処理する装置を開発、
IMOから基本承認。
今後、船上試験などを経て、来年中にはIMOと国から
それぞれ製品化前の最終的な承認を得られる見通し。
三井造船と日本海難防止協会などのグループが、
別方式で基本承認を取得。
海外では、独やノルウェーが既にIMOの最終承認を得た装置を開発。
日立プラント社によると、バラスト水処理装置は今後、
世界で1兆~2兆円規模の市場が見込めるといい、
担当者は「各国、各メーカー間の競争が激しくなるだろう」。
http://mainichi.jp/life/ecology/archive/news/2008/07/20080728ddm016040019000c.html
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