(Biotechnology Japan 1月6日)
新年明けましておめでとうございます。
今年は海際の霞も少なく、赤い、まん丸い太陽が海から飛び出しました。
左手に三浦半島、右手に伊豆半島と箱根山、正面には初島が姿を刻み、
湘南海岸の白波と青い海が初日の出を浮き上がらせました。
まさに、安藤広重が描いた、東海道五十三次の世界を体感。
今年のバイオは、統合力が問われる時代だと思います。
政策も、ビジネスも、そして学問もしかり。
技術革新は、境界領域の融合から興ると議論したことがありますが、
今年は技術革新のシーズを社会や事業に還元するために、
異分野や異業種を統合的にマネージする、統合力がより必要に。
今後の日本のあるべき姿や人間の幸福、追究すべき智慧の全体像を描き、
それに向かって時には相反する意見や技術、資源、集団を
いかに調和して動かすか、
わが国やわが国の国民の統合力が問われる時代がやってきた。
生命科学に関して言えば、システム生物学の時代が今年花開きます。
個々の要素追求が、omicsの登場によって網羅的に探索可能となり、
単一遺伝子やたんぱく質が原因の疾患は多くない。
問題は、ヒトというハードウェアの偏りと環境の変化の蓄積によって、
機能不全を起こしたのか、という個別システムの解明が必要。
システム生物学の追究が進めば、生物毎のシステムの記述が可能に。
DNA、時間、空間、資源、歴史、環境、コミュニティのパラメーターをもった
数学的なモデルで、ヒトというシステムをシミュレートする。
汎用性のあるヒト・モデルの誕生は、
患者毎に最適な治療を提供する個の医療の実現をもたらす。
統合力は、個別化と裏表の関係に。
iPS細胞の技術突破も、システム生物学の発展を加速するエンジン。
システム生物学の対象は細胞に限定され、標準化した細胞の供給が不可欠。
由来と分化ステージが明確なiPS細胞由来細胞が提供され、
細胞レベルのシステム生物学が世界中どこの研究室でも
比較可能なデータを生むことに。
特定の転写調節因子やがん遺伝子などのセットを細胞に導入し、
細胞の運命を変えるというiPS細胞が実証したコンセプトは、
細胞レベルのシステム生物学の基本的な解析手段を生む。
ES細胞までリセットし、分化した細胞でも可逆的に運命を操作できる。
遺伝子導入や遺伝子干渉による細胞操作によって、
その細胞たらしめているシステムや要素を解析することができる。
プロテオーム、ペプチドームの技術突破により、
シグナル伝達過程で、たんぱく質のどこにリン酸化や脱リン酸化が起こるか、
経時的に網羅的に解析可能。
今まで不可能だったシグナル伝達系のシミュレーションも手が届くように。
イメージング技術は、細胞内物質のダイナミックな分布を確実に捉えつつある。
赤血球のシステム生物学では、低酸素分圧によるTCAサイクルから
解糖系へのエネルギー生産の転換は、
解糖系の酵素群が吸着していた担体から細胞質内に放出されて起こる。
こうした変化をトップダウンで捉えるのが、先端イメージング技術。
細胞の生理学的・生化学的な解析と画像解析を統合する力が不可欠。
生命科学の統合力を実現するために、膨大な計算機能力が必要。
システム生物学のインフラとなる京速コンピューターの建設が神戸で開始。
07年は、新薬の許認可や臨床試験の促進に、大きく”山が動いた”年。
一部の医療機関も、国際共同治験に積極的に参加する体制を整備。
認可が滞っていた抗体医薬「アバスチン」も昨年承認され、
バイオ新薬が誕生する道を拓いた。
低分子標的医薬(抗がん剤)と組み換えパピローマウイルスワクチンなどの
販売申請も行われ、08年には商品化。
しかし、医療の高度化と医師の偏りによる勤務医の過剰労働により、
新薬の臨床試験どころではないという実態。
国は、臨床試験に研究資金を投入し、新薬開発と臨床開発を統合する必要。
新薬開発のらち外に置かれた患者の参画も重要。
患者の参画なき、ガイダンスの策定は止めるべき。
患者不在の小田原評定は、許されるべきではない。
07年には、大手製薬企業がいっそうのリストラを実施。
ファイザー、シェーリングなど研究所を閉鎖、
バイオベンチャーに新薬シーズを依存する
イノベーションのアウトソーシングが常態化。
2010年に大型新薬の特許切れに悩む大手製薬企業も、
自社の研究だけに拘泥することは許されない。
しかし、バイオベンチャー企業は、追加資金難で気息奄々。
大學発ベンチャーとして誕生した600社以上のバイオベンチャー企業も
単一の技術、商品に依存したビジネスモデルの限界にぶち当たり、冬眠情況。
ベンチャーと大手製薬企業、ベンチャーとベンチャーを統合し、
より強い、より創造的な企業を創り上げる統合力が不可欠。
統合力が試されるもう一つの分野は、
バイオフューエルやホワイトバイオの分野。
バイオフュエルやホワイトバイオの領域は、既存の商品との戦い。
カーボンニュートラルのような新しい価値を社会に問いかけて認知させる
科学や技術以外の政治力が必要。
バイオエタノールに対するガソリン税の不課税は、2円程度のメリットだが、
今後の社会的な突破口に。
環境エネルギー領域のバイオ事業化には、技術革新だけでなく、
社会を動かす運動を統合する力が問われている。
最後に、統合力には新しい世界観と意思が込められている。
単なる理念なき野合では、荒波を乗り越えることは難しい。
Biotechnology Japanは、わが国唯一のバイオポータルとして、
新しいコミュニティメディアを目指します。
どうぞ、皆さんの一層のご参画を今年も期待しております。
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2008010451869
0 件のコメント:
コメントを投稿