2008年1月19日土曜日

第2部・地球からの警告/2 北極で資源争奪戦

(毎日 1月3日)

北極の資源争奪戦が激化している。
温暖化で氷が解け、採掘や輸送がしやすくなった。
温暖化に悩む先住民たちは、開発の是非という新たな問題にも直面。

「通行不能だった念願の近道が開いた」。
欧州宇宙機関の昨年9月の発表が世界の注目。
大西洋から北極海を抜けて太平洋に至る「北西航路」が、
氷に阻まれずに航行可能になったことが衛星観測で確認。
日本-ニューヨーク間が、パナマ運河経由より数千キロ短縮できる夢の航路で、
8月11日から約5週間、氷がなくなった。

北極の海底は、天然資源の宝庫
世界の埋蔵量の約1割の石油や天然ガスが眠るとの推計。
北西航路が開けば、開発も進めやすい。

まず、ロシアが動いた。
潜水艇を北極点直下に潜行、海底にチタン製の国旗を立て、
「北極点は自国の大陸棚にある」と開発権を主張、示威行動に。
米国は、「北極海は新たな監視エリア」として、アラスカ州バローに
沿岸警備隊の基地新設を計画。
カナダは、「北西航路は国内航路だ」として、管理権を主張。

活発化する各国の動きについて、バローの先住民、
ユージン・ブラウワーさん(59)は苦々しげに、
「温暖化が進んでいるからさ。
この夏は見たことない国の船が海を行き交っていたよ」

「私が職にある限り、開発には反対する」。
昨年11月、アラスカ州カクトビック村の集会所。
エドワード・イッタ郡長が、沖合で計画される油田開発への反対を表明。
カクトビックやバローのノーススロープ郡には、全米有数の石油資源が眠る。
ブッシュ政権は、ロイヤル・ダッチ・シェル社に沖合での油田試掘を認めた。

だが、先住民らは「海への影響が心配だ」と反発。
郡や環境団体は、開発差し止めを求めて連邦裁判所に提訴。
審判は今も続いている。
イッタ郡長は、「私たちの生活様式を守る闘いだ」。

一方で、陸上の油田開発には、カクトビックの先住民の多くが賛成。
ブッシュ政権は05年、野生生物保護区での石油開発解禁を提案。
民主党議員などの反対で実現してないが、フレッド・アイシャナ村長(40)は、
「村の施設の建設や維持に、新たな油田開発は欠かせない」。
プルドーベイ油田は全米最大で、州の歳入の4割を石油税が占めるが、
州の石油産出量は今後20年で3分の1に落ち込む見通し。

しかし、反対も人口の2割の60人以上。
油田で働いたこともあるシェルドン・ブラウワーさん(39)は、
「我々は自然に依存して生きてきた。
海でも陸でも、自然を壊してはいけないのは同じだ」。
先住民の人権保護運動に携わるシーラ・ワットクルティエさん(54)は、
「氷があれば、こうした動きは起きなかった。
化石燃料の開発が進めば、更に氷は解け、資源の奪い合いを強める。
国同士の摩擦を北極に持ち込まないでほしい」

http://mainichi.jp/life/ecology/select/news/20080103ddm002040016000c.html

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