(読売 6月11日)
プールの底に並ぶ14個の窓から、
全長50メートルの別世界が鮮明に見渡せる。
北京五輪代表14人を含む豪州スポーツ研究所(AIS)所属の
競泳選手らが、水棲動物のように行き来する傍らで、
水底から白い柱が垂直に立ち上がる。
その柱の間を、飛び込んで来た選手の白い泡が横切った。
2006年に世界各地のハイテクプールの長所を採り入れて、
首都キャンベラ郊外に完成した新AISプール。
バイオメカニクス(生物力学)科学者チーム「水泳検査訓練研究班(ATTRU)」
責任者、ブルース・メーソン氏は説明する。
「柱は、磁気で通過速度を測定する装置。
スタート台は、力と方向を測るセンサー。
最高精度だと、体内の血液の流れまで測れる」
話題のスピード社の新作水着「レーザーレーサー(LZR)」。
その開発には、本社のある英国だけでなく、
世界各地にある研究施設、企業がかかわった。
AISプールは、最先端システムでマイケル・フェルプス(米)らの泳ぎを計測、
中核的な役割を果たした。
30台近い水上・水底のカメラが飛び込んだ選手の動きを追い、
プールサイドのスクリーンに中継する。
同時に、コンピューターがセンサーからの情報を分析し、
画像上に力の大きさ、方向、飛び込み角度、水中速度など
10以上のデータを描き込む。ビジュアルで、しかもライブだ。
選手は再生画像をもとに、コーチから改善点を指摘され、再び飛び込む。
「以前は、分析に何時間もかかっていた。
それだと、選手もコーチも感覚を忘れるだろ」。
現場のニーズを最優先した科学の支援が自慢。
豪州競泳陣は、01年まで米国と互角の勝負をしていた男子が、
世代交代で地盤沈下。
北京五輪で金メダルの期待を担うのは女子。
AISのピーター・フリッカー局長は、
「日本、英国など各国が、AISに匹敵するすばらしい強化拠点を作り、
高度な体制を整えつつある。さらに上を行く必要があった」と
新プール建設の背景を説明する。
AISは、初めて金メダルなしに終わった1976年モントリオール五輪の
危機感から生まれた。
中核だった科学部門は進化を続け、
「今は遺伝子情報をどう才能発掘や育成に生かすか、倫理指針を検討」。
スポーツ科学の教授でもある局長が明かす。
昔からスポーツは、平等を理想とする豪州の精神文化の礎だ。
「だから、スポーツは国民性そのもの。
金メダルが取れなければ、豪州と言えないでしょう」(フリッカー局長)。
AISの存在意義は、文化の誇りを守ることでもある。
http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080611.htm
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