2008年7月4日金曜日

どん底からはい上がる 「同じ悲しみ」分かち合い 緊急連載企画「命つなぐために-自殺大国ニッポンのいま」5回続きの(5)

(共同通信社 2008年6月25日)

5月17日、JR仙台駅近くのホールに千葉や岐阜、大阪など
各地の自殺者遺族が集まった。
約30都道府県、200人以上が参加する「全国自死遺族連絡会」の初集会。

「何十年と続く悲しみにどう向き合うか」、「地域で孤立する仲間を救いたい」。
これまで表舞台に立つことが少なかった遺族たちの
「生の声」が会場に響いた。

「遺族だからこそ、気持ちを分かり合える」。
福島市の女性の言葉に、拍手がわく。
連絡会の世話人、田中幸子さん(59)=仙台市=も壇上で小さくうなずいた。

3年前、幸子さんは警察官の長男健一さん=当時(34)=を自殺で亡くした。
異動直後の激務に体調を崩し、休職中の出来事。
休職が決まった後も、健一さんが自主的に仕事に出ていたと後で知った。
「ゆっくり休み、落ち着いてきていると思っていた」。
息子の苦しみを理解し切れていなかった後悔。
「後を追いたい」との気持ちを懸命に抑えた。

すがる思いで遺族支援の会合に参加したが、
当事者でないスタッフを交えて悩みを語り合う進め方に、なじめなかった。
「いすに座って、しくしく泣いている『典型的な遺族』を演じてしまった」。

会合の後、遺族だけで開かれた「お茶会」の方がしっくりきた。
冗談を言っていたかと思うと、突然床に突っ伏して泣きだす人。
同じ痛みを持つ人同士なら、素直に振る舞えると知った。
遺族が運営する自助グループ「藍の会」を発足させたのは、2006年。

他県からも、参加者や電話相談が相次いだ。
「当事者が思いをはき出せる場が、いかに少ないか」。
そんな驚きが、各地の遺族や自助グループが連携し、
支え合う全国連絡会の結成につながった。

昨年6月に政府が決定した「自殺総合対策大綱」には、
遺族支援も柱の一つとして明記。
だが、具体的な方策はまだ途上。
精神的ケアや相続などの法律相談、生活支援の充実など課題は山積。

「国はなぜ、遺族支援の仕組みづくりに当事者の声を生かさないのか」。
連絡会の初集会では、こんな不満の声も。
行政の支援策検討の場で遺族が直接意見を述べる機会は、
ほとんどないのが実情。

「遺族だからこそ、できる遺族支援がある」。
その思いを行政や専門家にも伝えたい。まだ声は小さい。

それでも最近、各地の自治体から問い合わせが来るように。
「『行動する遺族』が、認められつつあるのかな」。
幸子さんは明るい表情でそう話した。

※ 自殺者遺族の支援  

国の自殺総合対策大綱は、自殺した人の遺族への対応を
「後追い自殺を防ぐことも期待できる」として重視。
自助グループの運営支援や、相談窓口を記したパンフレットの配布などに
積極的に取り組むとしている。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=76284

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