(読売 6月23日)
「精神訓練の一環でヘビを口にくわえたんです。失神した仲間もいました」。
1996年のアトランタ五輪アーチェリー女子個人・団体金メダルの
金京郁(キムキョンウク)さんは、現役時代に軍隊で行った
練習の思い出に苦笑いした。
アーチェリーの韓国女子は、五輪で個人6連覇、団体5連覇中。
今でこそ「ヘビくわえ」はしないが、度胸をつけるためのバンジージャンプも。
韓国のお家芸は、練習内容もひと味違う。
8~10歳ごろに弓を持ち、才能を認められた子供だけが
上の学校で競技を続ける。
代表候補になると、国立合宿所に住み、練習と試合の繰り返し。
愛好者という位置づけはないから、国内の選手登録は
約1500人と日本の約10分の1。
選ばれた者だけが競技を続けるエリート・ピラミッド。
ソウル市内の中学校の校舎屋上で、女子選手が矢を放っていた。
休日は一日中、授業がある時は放課後から深夜まで練習。
同じ時間、真下の教室では補習授業の真っ最中。
“未来の金メダリスト”を目指す呉(オ)タ美(ミ)さんは
「金メダリストになりたい。そのためには努力しないといけないから」。
そんな韓国有数のエリートスポーツも、環境は恵まれたものばかりではない。
教育熱が高い韓国では、子供一人当たりの養育費の高騰が
少子化の要因に挙げられるほど。
「学歴がないと、社会に出た後に厳しい」風潮があり、
スポーツに専念するなら、勝ち組にならねば、との考えが主流。
当然、メダリストになるのは難しいから、
親は「スポーツに専念するリスク」を避けたがる傾向。
呉さんを指導する韓煕貞(ハンヒジョン)コーチは、
「才能があっても、辞めていく選手は少なくない。
子供を説得できない親もいる。
そういうときは、強制的に弓を握らせるしかないが、選手の確保は大変だ」。
韓国オリンピアン協会の事務総長を務める宋錫漉(ソンソクロク)
京東大教授(スポーツマーケティング学)は、
韓国スポーツ界の現状を「著しい二極化」。
巨額の契約金や年俸で生計を立てるスポーツ選手、
生涯年金などの支援を受けられる五輪金メダリストはごく一部。
協会や実業団の力が強く、結果を残せなかったら
すぐに解雇される選手も少なくない。
「ずっと競技だけをやってきた人が引退後、社会に適応出来ないケースも多い」。
成功者の陰に、隠れた多くの敗者を救済するシステムはまだ未熟。
厳しい環境と過酷な生存競争――。
「価値があるのは1番だけ。2番以下は敗北」。
エリートスポーツに身をささげる強烈なプライドが、金メダルの系譜の源泉。
http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080623.htm
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