2008年6月30日月曜日

当世留学生事情(1)15大学連携 精鋭獲得狙う

(読売 6月17日)

質の高い学生を獲得しようと、日本の大学が海外で活動。
マレーシアの首都クアラルンプール郊外にある
セランゴール州立セランゴール産業大学の教室。
試験管に入れた液体の色の変化を注視していたマレーシア人学生、
モハマド・ハニフさん(19)は、ノートの表に「白」と漢字で書き留めた。
ほかの欄には「赤褐色」「緑」の漢字。
教壇から日本語で指示するのは、日本の大学の日本人講師。

「JADプログラム(日本マレーシア高等教育大学連合プログラム)」。
寮に住みながら、3年間現地で日本人教員による授業を受けた後、
日本の大学の3年に編入、日本の学位を得る。
分野は、電気工学と機械工学限定。

「エンジニアになって、トヨタで働きたい」というハニフさんは、
現地で学んで2年目。
日本の大学生顔負けの正確な日本語の文章が書ける。
午前7時50分から午後5時までぎっしり詰まった授業で、
1年目は1日の半分を日本語の授業に充てたお陰。
授業では、教員がわざと乱れた文字を板書したり、早口でしゃべったり。

化学、数学、物理など、一般教養的な授業を経て、2、3年目になると、
「電気回路理論」「流体工学」など、日本のカリキュラムに基づく科目が並ぶ。

学生は、応募者約2000人の中から、マレーシアの全国統一試験での成績、
日本人の教授による面接などで選抜された約90人。
マレーシア滞在2年目になる芝浦工業大学の水野俊夫教授は、
「学生の意欲が高いので、授業を詰め込んでも集中力がとぎれない」。

日本の大学に入るためのマレーシアでの予備教育のプログラムは、
1993年に始まっている。
当初は2年間、日本語などを学び、日本の大学1年に入学させるもの。
現地で3年、日本で2年という新方式は05年から。
これだと、留学費用が安く済み、日本に来てから日本語で苦労する心配もない。
事前に日本の大学の情報も十分に得られる。

このプログラムを使って、十数年で約600人が日本に留学、
今年度、新方式で教育を受けた75人が初めて、日本の15の大学に編入。
各大学の担当者がマレーシアを訪れ、来年、編入する学生向けに説明会。

15校は、「日本国際教育大学連合」を設立した早稲田大学、慶応大学など
私立12校と、埼玉大学など国立3校。
実際には、幹事校の芝浦工業大学と拓殖大学両校だけが、
教授3人を含む教員10人をマレーシアに送り込んでいる。

日本では近年、留学生を巡る事件や不祥事が社会問題化したことや、
大学間の国際競争の激化から、各大学が個々に海外事務所を設け、
現地で優秀な学生をリクルートし始めている。

マレーシアでのプログラムは一貫して、日本政府の円借款事業として
マレーシア政府が行ってきた。
学生には奨学金が、教員には給与や滞在費が、マレーシア政府から支給。
事業の期限は、14年3月まで。

その後に同様の仕組みが出来ないと、現地にいる間から授業料を徴収し、
大学側も負担をする必要。
「現在のアジア諸国の経済水準では、高額な授業料は取れない。
参加校を増やして会費をもらうのも限界」、
「大学連合」の事務局機能を分担しているNPO法人アジアシードの浜野正啓さん。

「大学連合」は、マレーシアでのノウハウを生かし、他の国でも、
共同で海外拠点を設け、海外の大学と連携したいと考えている。
だが、留学生を増やすために、費用がかかることは間違いない。

◆円借款

発展途上国のインフラ整備などのため、日本政府が国際協力銀行を通じて、
低利で長期に貸し付ける制度。
政府開発援助(ODA)の一種で、有償資金協力とも。
累計融資額は、4兆2703億円のインドネシアが最多、
中国、インドが続く。マレーシアは9171億円で7番目。

◆現状12万人 首相「30万人」提唱

「留学生受け入れ10万人計画」が提唱されたのは、1983年。
提唱者は、当時の中曽根首相。留学生数は同年の1万428人から、
2007年には11万8498人まで増加。
ただ、ここ数年は12万人前後で推移。
福田首相は、「世界の活力を、日本の成長のエネルギーとしていく」と、
「留学生30万人計画」を提唱。

政府の審議会などでは、これまでに具体策として、
〈1〉国内30大学を政府が重点支援、
〈2〉留学生の国内就職率(現状は3割)を5割に引き上げ、
〈3〉日本留学に関する情報提供や留学生選抜にも活用できる海外拠点の整備、

07年5月現在、出身国・地域別留学生数は、
中国が7万1277人で全体の約6割。
韓国(1万7274人)、台湾(4686人)、ベトナム(2582人)、
マレーシアは2146人で5位。6位タイ(2090人)、7位米国(1805人)。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080617-OYT8T00283.htm

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