2008年8月12日火曜日

難病患者皮膚から万能細胞 ALS、運動神経も作製 米大学、原因解明へ前進

(共同通信社 2008年8月1日)

運動神経が侵され、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病、
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の高齢な患者の皮膚から、
新型万能細胞の「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作製することに、
米ハーバード大などのチームが成功、米科学誌サイエンスに発表。
できたiPS細胞を、試験管内で運動神経に成長させることにも成功。

難病患者由来のiPS細胞から、
治療や研究に必要な細胞を作製できたのは初めて。
ALSの原因解明や治療研究の進展につながるほか、
細胞に治療を施して患者に戻すなど、
将来の再生医療の実現にも期待を抱かせる成果。

チームは、女性の遺伝性ALS患者(82)の皮膚細胞に、
京都大の山中伸弥教授が開発したのと同じ
4つの遺伝子を導入する方法で、iPS細胞を作製。
薬品を加えて培養するなどして、運動神経細胞と「グリア細胞」と呼ばれる
脳の細胞に成長させることに成功。

だが、ALSで起きる異常を再現させることまではできていない。
高齢の患者で成功したことから、iPS細胞は、患者の年齢にほぼ関係なく
作製できる可能性が高くなった。

ALS患者の運動神経細胞を採取して研究するのは困難だが、
今回の方法を使えば、必要なだけ試験管内で増やせるため、
ALSの研究は大きく進む。

ALSの9割以上は遺伝性ではないが、チームは今回の手法は、
そうした遺伝性ではないALSの研究にも役立つ。
日本国内には、約7000人のALS患者がいる。

【解説】
難病のALS患者の皮膚からのiPS細胞づくりと、
そこからの神経細胞の作製は可能と予測されていたが、
ある研究者は「やはりインパクトは大きい」。
iPS細胞を開発した山中伸弥・京大教授はじめ世界中の研究者が、
さまざまな病気の患者の細胞からのiPS細胞作製にしのぎを削っている。

ALSは、運動神経が変性する難病。
患者由来のiPS細胞から運動神経を得られれば、患者に負担をかけず、
研究に十分な量を確保できる。
治療薬の効果を試す際にも、従来のように動物細胞ではなく、
患者の運動神経を使えるなど、新たな可能性をもたらす。

今回のiPS細胞が、すぐにALS患者の再生医療に使えるわけではない。
作製に、がん化の恐れが否定できない遺伝子やウイルスを使っているため、
当面は、病気のメカニズムなどの研究が徹底的に行われる。

山中教授が、人の皮膚からのiPS細胞作製を報告した昨年11月から
1年もたたないことは、世界の研究競争の激しさを物語る。
京大は、今年6月に倫理委員会が同様の研究計画を承認したばかり。
「日本が先陣を切れなかったのは残念」と話す研究者もいる。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=77951

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