(毎日 8月9日)
「中華民族100年の夢」とうたわれた北京五輪が8日、開幕。
開会式では、中国が誇る悠久の歴史や現在の発展ぶりが
華やかに表現され、開催国の国威発揚の舞台は興奮に包まれた。
しかし、一党独裁体制下で経済成長を続けてきた中国では、
格差の拡大やナショナリズムの高揚、少数民族政策の行き詰まり。
五輪を機に、世界の視線がさらに厳しく集まるなか、
中国は「真の大国」に脱皮できるかどうか。
「三 3」「二 2」「一 1」--。
「鳥の巣」と呼ばれる開会式会場の国家体育場。
カウントダウンで、漢数字とアラビア数字の人文字が浮かび上がった。
一糸乱れぬマスゲーム。
中国と西洋で生まれた文字を同時に並べる演出。
開会式のショー部分は2部から成り、
「燦爛とした文明」と「輝かしい時代」に分けられた。
世界四大文明の一つとして、悠久の歴史を誇示するとともに、
「『改革・開放』後の現代中国の姿を示す」
(張和平・北京五輪組織委員会開閉会式作業部長)構成。
数千年にわたり、世界に文化を発信し続けた「過去」と、
高度経済成長を背景に世界と一体化する「現在」。
共に「開かれた中国」を演出する共通の狙い。
紙、活字、羅針盤、火薬と、中国が生んだ世界的発明を映像も駆使して披露。
2種類の数字の人文字も、中国と世界を結ぶメッセージが込められた。
中国の五輪誘致は、1908年、天津のキリスト教青年会(YMCA)の
年度報告に記された「中国はいつ五輪を開催できるようになるのか」
との提起がきっかけ。
「100年の夢」がかなった夜、生命のゆりかごを象徴する「鳥の巣」から
打ち上げられた花火は一瞬、不死鳥「鳳凰」の姿に。
自らを世界の中央に位置付ける「中華」色の濃い演出。
チベット暴動と、対応を批判したサルコジ仏大統領をはじめ、
日米など主要国の首脳が貴賓席にずらりと顔をそろえた開会式。
それは、中国の体制に不信感を抱きながらも、
中国の存在を無視できない現状を物語る。
中国国内では、経済成長の自信を背景に、ナショナリズムが急速に台頭。
五輪開催の経験は、ナショナリズムに伴う排他性を加速させる恐れ。
胡錦濤国家主席は開会式に先立ち8日午後、
80カ国以上の首脳を北京・人民大会堂に招いた歓迎レセプションで、
「北京五輪は中国だけでなく、世界にとってもチャンス」。
世界とどう協調していくのかは、まさに中国自身が抱える課題。
何振梁・国際オリンピック委員会(IOC)元副会長は、
「中国は、国力をつける中で『五輪100年の夢』を実現。
五輪開催が中国に何をもたらすか。
その姿は時間がたたないと見えてこないだろう」。
中国は共産党一党独裁の下、民主化をためらいつつ、
資本主義の体現ともいえる「商業五輪」を史上最大規模で実現。
その矛盾こそ、中国が抱え続ける問題。
北京五輪のスポンサーには、海外の巨大企業がこぞって名乗りを上げた。
人口13億の巨大市場で、販路拡大を狙ってのこと。
公式スポンサー12社からの収入は、8億6600万ドルで五輪史上最高。
一方、経済至上主義が中国国民の間に浸透し、
「五輪バブル」は国内の格差を広げた。
胡主席は、「五輪の政治化は、オリンピック精神と世界の人々の願いに背く」
しかし、中国にとって五輪開催への道のりは、国際政治そのもの。
民主化を求める学生らを武力弾圧した天安門事件(89年)で、
国際的に孤立する中、五輪招致の話を具体化。
進展しない民主化や少数民族政策などへの批判が要因で、
招致に失敗してもあきらめず、再度の立候補で五輪招致を勝ち取った。
スーダン・ダルフール紛争への「中国の対応」に抗議して、
米国の映画監督、スピルバーグ氏が開会式芸術顧問を辞退。
開会式の演出は、中国の映画監督、張芸謀(チャンイーモウ)氏が担った。
「初恋のきた道」、「単騎、千里を走る。」などの作品で
世界的にも著名な張氏は、中国の全56民族の民族衣装姿での行進を演出。
「中華民族」は、人口の92%を占める漢族だけでなく、
チベットやウイグルなど少数民族も一員と示す狙い。
チベット暴動や、直前の新疆ウイグル自治区での警官16人殺害事件など、
少数民族政策がほころびを見せる中で迎えた北京五輪。
民主的権利への締め付けが続く一方、
四川大地震の救援・復興で盛り上がった愛国心は、五輪でさらに高揚。
矛盾も深まる中、建国59年の中国は五輪を機に次のステップへ。
http://mainichi.jp/enta/sports/08olympic/archive/news/2008/08/20080809ddm003030098000c.html
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