(読売 8月12日)
美術離れへの危機感が、ライバルの手を結ばせた。
武蔵野美術大は、高校生やその保護者らを案内する
赤や黄色のTシャツ姿の学生であふれていた。
タワシやスポンジに絵の具を含ませ、来場者と一緒に
校舎の壁面いっぱいの紙に絵を描く学生たちも。
オープンキャンパスが開かれている同大の一室のスクリーンに、
「ムサビVSタマビ」、「ムサビ&タマビ」の文字が点滅。
スクリーンを背に、「多彩な才能が集まるムサビ」、「タマビは原石の魅力!」
と2人の男性が大学自慢をし合う。
武蔵野美術大企画広報課(現法人企画室)の千羽一郎さん(37)と、
多摩美術大企画課の米山建一さん(35)だ。
話題は、美術の魅力や大学の歴史からキャンパスの変人自慢にまで及んだ。
「全裸の男子学生が走り回るのを見た女子学生が、
静かに『春だね~』って……」、
「炎天下で突然、特設噴水を造った学生たちがいた。すぐに撤去されたけど」
オープンキャンパスの裏方による異色の「バトルトーク」。
帝国美術学校を母体とし、戦前にたもとを分かった両校が
初めて取り組んだ試みは、来場者約140人の笑顔に受け入れられた。
「偏差値教育の中で、美術は軽視されてきた。
深い思考を必要とする美術の重要性を訴えたい。
受験生の争奪戦に血道を上げている場合ではない」
甲田洋二・武蔵野美術大学長(69)が意義を強調。
武蔵野美術大のオープンキャンパスは2001年スタート。
最初は8月だったが、翌年には6月に移した。
夏休みは構内が整然としているが、美大の魅力は学生のエネルギー。
雑然としていても、制作で活気がある時期に日常を見せる方が意味がある。
オープンキャンパスの定番である学食の無料体験や、
最寄り駅とのバスによる無料送迎はない。
特別のサービスは、日常にはそぐわないから。
試行錯誤しながら、千羽さんには物足りなさが残った。
広報担当として、年間約100の高校を訪れる日々で、強い違和感。
偏差値で受験大学を絞り、最後に「絵がうまいから」と
美大を薦める進路指導の教師。
専門学校で美大受験の技術を磨いているのに、
「何を描きたいか」を語れない高校生。
「誤解されている。作品から何を伝えたいかを深く考え、
学ぶ場が美大ではないか」。
それを早い時期に伝えないと、美大ひいては美術離れを加速させてしまう。
その懸念が企画の出発点。
以前、1枚しかパンを焼けないトースターが雑誌などで話題に。
武蔵野美術大教員が開発した商品だった。
デザインの面白さだけではない。
2枚焼けない不便さよりも、焼き上がった1枚を「お先に」と譲り合うか
半分に切るか、少しのゆとりと思いやりを持ってほしいというメッセージが受けた。
大切なのは、小手先の技術ではない。
ふだん何気なく見過ごしている日常風景を体全体でつかみ、
表現する力を養うため、同大の一部学科では、入学後まもない時期に、
目隠しをして素足で構内を伝い歩きする授業がある。
千羽さんは、こうした授業などを通し、大学で培った物事への洞察力を
深めてもらいたいと考え、こんなエピソードを幅広く知らせることで、
高校生に美大を選ぶ本当の意味を伝えられないかと思うように。
その思いにいち早く反応したのが、広報担当としてつきあいのあった米山さん。
「美術には夢と未来がある。それをわかってもらおう」と快諾。
2人が向き合うテーブルの上には、女子美術大や名古屋造形大の
広報担当者から送られた花かごも。企画への共感は広がっている。
大学のオープンキャンパスが最盛期。
週末ともなると、全国各地で、工夫を凝らした受験生確保の“夏の陣”が展開。
原型は、入試傾向や大学の概要を説明する「進学相談会」。
1970年代に始まり、80年代には「オープンキャンパス」という名称で、
首都圏を中心に広がった。
現在では開催しない大学の方が珍しく、
受験生が大学選びの判断材料を探す場に。
学食体験、模擬授業、教員や上級生による進学・受験相談会のほか、
ケーキバイキングやオリジナル文具配布といった集客に工夫を凝らす大学も。
観光学部の学生に、近隣の観光案内をさせるなど、
大学生自身の学びに活用する大学も。
◆芸術系細分化で受験生分散
今年6月に約37万人が受けたベネッセコーポレーションの進研模試で、
芸術系の志望者総数は、前年並みの約5万5000人。
ここ数年横ばい状態。
工学部や生活科学部などにデザインやインテリアを学べる学科を
設ける大学が増えるなど、芸術系が細分化されており、
限られた受験生を取り合う状態に。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080812-OYT8T00235.htm
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