(読売 8月20日)
地域の人も対象に、オープンキャンパス(見学会)を開く大学院がある。
ビーカーからスポイト状のピペットで水を吸い取り、慎重な手つきで
メスシリンダーに移す中学生たち。
5~6人の班に一つずつ、シャーレに入った黒い液体が手渡されると、
生徒の好奇心に満ちた視線が一斉に注がれた。
北陸先端科学技術大学院大学のオープンキャンパスで、
一際目を引いたのは、地元の中高生らに模擬授業と実験実習を
経験させる「一日大学院」。
先端科学技術の一端にふれてもらい、理科への興味を広げてもらう狙いで、
今年は169人が集まった。
マテリアルサイエンス研究科の前之園信也准教授(38)が企画した
実習のテーマは、「謎の液体磁石」。
正体は、油の中に細かい磁石の粒子を分散させた液体「磁性流体」で、
NASA(米航空宇宙局)が宇宙服のつなぎ目をふさぐシール材として開発。
磁石を近づけると、液体が瞬時にウニのとげのような形に姿を変える。
圧巻は、強力な磁石を使った実験。
ふたをとったシャーレを逆さにしても、とがった液体は落下せず、
生徒が発する感嘆のため息が小さな実験室に広がった。
実験後、「未来博士」の修了証を受け取った市立辰口中学校1年の
田畑孝憲君(13)は、「固体の磁石しか知らなかったから、とてもおもしろかった。
高校進学の手がかりになった」。
同大は、地域との密着をオープンキャンパスの柱の一つに掲げている。
先端的な研究内容のパネル展示も、一般の人でも分かるように
かみ砕いて書かれている。
地元住民による郷土料理の販売ブースまであり、
さながら地域のお祭りといった雰囲気。
「大学院大学は学部がないから、知名度を上げて全国から優秀な学生を
集める必要がある。そのためにはまず、先進的な研究内容を公開し、
地域に愛される大学になることが不可欠」と片山卓也学長(69)。
この日の参加者約970人のうち、8割余りは地元住民が占めた。
一日大学院は、学生を受け入れ始めて間もない1993年に始めた。
今年は、カメラが人の顔を見つけて焦点を合わせる画像認識技術の実習、
赤外線を実体験するプログラムなど6講座が準備。
「職場体験や総合的な学習の時間でも協力してもらっており、
とてもありがたい。一日大学院で生徒たちが理科により興味を持ってくれれば」
と生徒を引率した辰口中の西田充宏教諭(43)。
「ピペットで水を測るだけでも『おもしろい』という生徒がいたのは、
理科の授業からいかに実験の機会が失われているかの証しだ」と
前之園准教授。
「理科離れと言われるが、一日大学院を受けた生徒が一人でも多く
科学の道へ進んでほしい」と期待。
「未来博士」の言葉には、将来、同大の研究を担う本物の博士が
生まれてほしいという願いも込められている。
◆大学院大学
学部を持たない大学院だけの大学。
学部教育に重点が置かれていた従来の大学を改革し、
先導性を持った教育・研究者を養成するため、
文部省(当時)の大学設置審議会が1974年に提言、
76年に学校教育法が改正。
82年開学の私立国際大学(新潟)が第1号で、
現在国立4、公立2、私立20の計26校。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080820-OYT8T00183.htm
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