宮沢賢治の作品の舞台として知られ、北上川河畔にある国の名勝
「イギリス海岸」(岩手県花巻市)が、ここ10年来、川底に水没して
ほとんど姿を見せなくなり、訪れる賢治ファンをがっかりさせている。
国土交通省は、観賞できるよう北上川の三つのダムの放流を
一時的に最小限まで絞り込む方針を決めた。
賢治の命日の21日に実施。
イギリス海岸は、賢治ゆかりの場所として、
全国から多くのファンや観光客が訪れている。
最近では、10年ほど前の干ばつの時に姿を見せたぐらい。
洪水調節や発電、灌漑のため、北上川上流に造られた複数のダムにより、
水位が高位で安定するようになったことが、原因の一つ。
関係するダムは四十四田(盛岡市)、御所(同)、田瀬(花巻市)の3ダム。
国交省北上川ダム統合管理事務所では、
賢治関係者や地元花巻市からの要望に、2年がかりで放流調整を検討、
稲刈りの時期で農業用水が多く必要とされず、
賢治の命日で「賢治祭」が開かれる21日を選んで実施。
発電に関係する岩手県企業局や電源開発にも、了解を得た。
放流調整は、20日午後9時~21日午前9時まで。
3ダムを合わせた最大毎秒150トンの放流量を、最小限の34トンまでに絞る。
管理事務所では過去のデータを分析、
海岸は付近の流量が50トン以下に落ちた場合、姿を現す。
放流水がダムから到達するには12~13時間かかり、
21日午前中には久しぶりに海岸が顔をのぞかせそう。
管理事務所の葛西敏彦所長(55)は、
「イギリス海岸は北上川の宝。成功したら毎年実施したい」。
地元で長年、海岸を撮影し続けている吉田精美さん(79)は、
「もう見えないとあきらめていた。うれしいプレゼントです」
〈イギリス海岸〉
北上川と猿ケ石川の合流点に位置し、日が照るとイギリスのドーバー海峡の
白亜の海岸に似て、岩が乾いて真っ白に見えることから賢治が命名。
太古の地層で、炭化したクルミの実や獣類の足跡の化石が見つかっている。
賢治は、花巻農学校教員時代にしばしば生徒たちと訪れ、
その時の模様を随筆風短編「イギリス海岸」に描いた。
海岸のイメージは、「銀河鉄道の夜」を始め多くの作品に影響を与えた。
06年に国の名勝「イーハトーブの風景地」に指定。
0 件のコメント:
コメントを投稿