2008年9月21日日曜日

なお険しい数学復興の道

(サイエンスポータル 2008年9月9日)

日本の数学界が置かれた厳しい状況と打開策をまとめた
日本学術会議の提言が公表。
数学界の窮状に一般の関心が集まるきっかけとなったのは、
2006年に文部科学省科学技術政策研究所が公表した報告書
「忘れられた科学-数学」。

同研究所は、米国の政府関係者などのインタビュー調査に基づき、
米国が近年、数学研究予算を増加していることを明らかにした報告書
「米国の数学振興政策の考え方と数学研究拠点の状況」を公表。
米政府関係者が日本に対して、「明らかに数学に対する投資は十分でない」
と見ていることも紹介。

日本学術会議・数理科学委員会数理科学振興策検討分科会の提言
「数理科学における研究と若手養成の現状と課題」を読むと、
状況は変わっていないことが分かる。

現状を端的に示す指摘として、「博士課程の進学者数を、
5年程度にわたり政策的に抑制する措置」を応急的方策として提言。
国立大学重点化に伴い、数理科学系大学院の定員は、
旧帝大系など大規模大学を中心に博士修士とも急増したものの、
博士課程の定員を完全に充足している大学院は皆無、
という現実に基づいた窮余の策。

この背景として、博士号取得者が大学の常勤ポストに新規採用される数が
大幅に減少し(博士号取得し、直ちに常勤の職に付けるのは10%未満)、
短期研究職ポストは増加しているものの、任期が終了すると次の就職先がない
という問題が顕在化している、という現状が指摘。

「数理科学分野は、科学分野の横断的基盤領域。
数理的な思考は、現代社会で基本的であり、高い数理的能力を持つ
人材に対する社会のニーズは大きい」と、数値シミュレーション、ゲノム解析、
金融工学、リスク・マネジメント、CAD、コンピュータグラフィックス、
情報セキュリティ、大規模集積回路の設計など、
数理科学が社会に貢献できる数多い潜在的な分野の存在も強調。

ニーズはあるにもかかわらず、博士課程の定員を減らすことを
応急策とはいえ提言せざるを得ないところに、
数学界の置かれた苦しい状況が伺える。
「数理科学を、諸学や社会に開かれた形で発展させることに
積極的だったとは言い難く、応用部門の発展に後れを取っている」。

提言は、日本の数理科学者集団の問題点も指摘、
大学、行政、企業、学術関係者に加え、数理科学研究者コミュニティに対し、
具体的な努力を求めているが、道は険しそう。

http://www.scienceportal.jp/news/review/0809/0809091.html

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