2008年9月27日土曜日

記憶障害のある成人の認知力が運動で改善される

(Medscape 9月8日)

主観的記憶障害はあるが認知症ではない高齢者を対象にした
ランダム化試験で、6カ月間の身体運動(PA)プログラムで
認知機能が「わずか」だが継続的に改善するという結果。

メルボルン大学とセント・ビンセント病院のNicola T. Lautenschlagerは、
「主観的・客観的な軽度の記憶障害を持つ高齢者の認知機能が
運動で改善することを示したのは、今回の試験が初めて」
「身体運動の便益は、6カ月以降に現われ始め、
介入を中止した後も少なくとも12カ月間は持続」

この結果は、運動を毎週およそ142分間(1日に20分間)と
比較的わずかに増やすだけだった。
『Journal of the American Medical Association』9月3日号に掲載。

高齢化が進むにつれ、アルツハイマー病(AD)とともに生きる人の数は、
現在の2660万人が、2050年には1億600万人以上になると予測。
認知症の発症が12カ月間だけでも遅くできれば、
症例数は世界で920万件少なくなると推計。

ADのリスクを持つ者を対象にした介入としては、
ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬、ビタミンE、ロフェコキシブなどが
行われているが、これらの効果はほとんどない。

PAで認知力低下のリスクが減少することは、多くの研究で示されるが、
ランダム化試験によるエビデンスはまだない。

今回は、24週間の自宅PAプログラムによるランダム化対照試験を実施、
ウォーキング主体と教育および通常治療との比較を行った。
記憶に問題があることを申告しているが、認知症の判定基準には
合致しない者を被験者とした。
ランダム化の対象になったのは総数170例、138例が18カ月間の評価を完了。

主要エンドポイントは、アルツハイマー病尺度・認知力下位尺度(ADAS-cog)
の18カ月間での変化。

intent-to-treat分析によれば、運動群はADAS-cogが0.26ポイント改善、
通常治療群は1.04ポイント悪化、改善の絶対値は1.3。
「この結果は、ドネペジル使用で0.5ポイント改善する報告よりも優れている」。

6カ月間の介入後も、運動群には運動の継続を奨励。
プログラムの基本を再認識させるため、ニュースレターを定期的に送付。
18カ月後において、介入群はADAS-cogが0.73ポイント改善、
通常治療群の改善は0.04ポイント。

軽度の改善は、単語リストの遅延想起と臨床的認知症尺度の
合計点(sum of boxes)検査でよく見られ、
単語リストの即時想起、数字シンボルコーディング、発話流暢性、
ベック抑うつ尺度、医学転帰36項目簡易版による身体と精神の
下位分析では有意な変化がなかった。

今回の「改善のメリット」は、「ほとんど誰にでも可能で簡単な介入」に
便益がある可能性を示す。
運動の便益は、認知機能以外、抑うつ、生活の質、転倒、心血管系機能、
生活機能障害などにも影響。

Group Health Center for Health Studies(シアトル)のEric B. Larsonが、
Lautenschlager博士らの試験は、「堅牢な手法を用い、
少量の習慣的運動がプラセボに比べ、認知力をわずかに改善することを実証、
(ADの)予防に有用であり、『概念の実証』を大きく前進させた」

運動の順守率は、推奨される予防的保健戦略の中で最低のレベル。
Larson博士は、「(ADなどの)壊滅的な脳疾患に対する恐れが広がり、
高齢者や世間がもっと運動するようになる動機付けの一助となる」。

「運動、その他の生活因子も、血管リスクと晩年期の脳の健康に影響がある。
疾患を予防する従来の医学的アプローチに加え、普遍的教育、
全般的な医療、適切な環境、適切な栄養、習慣的運動、社会的交流の機会
といった社会的要因も、晩年期の健康状態の改善に大きく貢献」

JAMA. 2008;300:1027–1037, 1077–1079.

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=SPECIALTY&categoryId=580&articleLang=ja&articleId=79964

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