2008年9月8日月曜日

教師力08(6)脱「自己流」道場の教え

(読売 9月2日)

“道場”で授業力を磨いた1期生は、誰からも積極的に技を学ぶ。

「さん、に、いち、9分経過」。
ストップウオッチを見ながら、吉田清史教諭(38)が読み上げる。
東京都小金井市立小金井第一中学校の2年生20人が、
手にした線香を方眼紙の目盛りに合わせてそっと置く。
方眼紙には、線香の先の丸い焦げ跡がつく。
夏休み直前の一次関数の授業。
作業を1分ごとに繰り返すと、線香が短くなっていく様子を表す
グラフができあがった。

線香の長さと経過時間の関係に、気づき始める生徒が出てくる。
「きれいな直線になってる」。
満面の笑みを浮かべる生徒に、
「何分後に線香が燃え尽きるか、予想できそうかな?」。
まだまだグラフ作りに夢中の生徒には、
「次はどれぐらい短くなると思う?」。
時間を計りながら、それぞれに助言する。
授業終了時には、全員が一次関数の意味を理解した様子。

数学が得意な生徒も、苦手な生徒もみんなが楽しめ、
個別指導の時間も確保できる。
新しい単元に入る時には、できる限りそんな教材を用意する。
仕入れ先は、本やインターネット、先輩や他校の知り合い。
自分のクラスに合うようアレンジを加える。
「線香」は、同中の先輩教師に教えてもらった。
「どんどん聞いて試してみる。それが大切だと思います」

吉田教諭は、東京都教委の東京教師道場の1期生。
月1回開かれる学習会に2年間通い、情報交換できる仲間もたくさんできた。
同中の山本修司校長(58)は、「以前は、一生懸命さが空回りして、
生徒がついていけなかった。見違えるほどの成長です」

東大大学院で生物環境工学を学んだ。
大手食品会社の技術職を経て、中学校の教壇に立ったのは31歳。
幼いころから、数学は大好き。
高校生の時には、「カリスマ」と言われる予備校講師の参考書を見て、
「もっと、美しく、エレガントな解法はないかなあ」と思いを巡らせた。

最初の年、意気揚々と授業に臨んだ。
自己流で文字を多用し、数学の魅力を思い切り語った。
だが、反応は今ひとつ。
教室を出た瞬間、「わかんね~」とぼやく生徒の言葉が耳に届いた。
簡単なことを聞いたつもりなのに、生徒が泣き出してしまったことも。
教えたいことがあれもこれも出てきて、つい、しゃべりすぎてしまう。
自分の授業をそう分析し、反省した。

それからは、以前にもまして、校内の教員に教えを請うようになった。
一生懸命な姿を見て、応援してくれる保護者も現れた。
“道場”が開設されると聞いて、手をあげたのは、
支えてくれた人たちのためにも少しでも早く、多くのことを勉強したい。

“道場”は今春で修了したが、「もっともっと学びたい」と、
上級の東京教師道場錬成講座に通っている。
自己流はしばらくお預けだ。

◆東京教師道場

東京都教委が2006年度から、経験5~10年目の教員を対象に、
授業力向上を目指して始めた。
定員は毎年400人。
教科ごとに4人一組で、ベテラン教員らの助言を受けながら学習会に参加、
互いの授業も見学し合う。
今年3月に、1期生375人が修了。
うち125人が、さらに上級編の東京教師道場錬成講座(3年間)に参加。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080902-OYT8T00285.htm

0 件のコメント: