2008年9月9日火曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 牧本次生氏インタビュー

(日経 8月24日)

牧本次生・元日立製作所専務

―注目する科学技術は何か?

半導体だ。
半導体は、直接的には国内総生産(GDP)の1%産業だが、
波及効果も含めるとGDPの4割を占める。
金融分野では、非接触型のICカード、Suicaなどの電子マネーの普及で
硬貨の流通量が減少するなど、世の中に大きな影響を与えている。
テレビ、DVD、自動車も半導体抜きには語れない。
流通分野でも、ICタグをつけて物流を管理し始めた。
技術革新の原動力は、すべて半導体が支えている。

―半導体は1980年代前半は日本が席巻していた。

世界の52%の市場シェアを占めていた時代もあった。
だが、貿易摩擦が生じ、日米半導体協定が結ばれてからは管理貿易となり、
日本の半導体の力は落ちてしまった。
その間に米国が復権し、韓国や台湾、シンガポールが躍進した。
韓国や台湾、シンガポール、欧米の政治家のトップは、
半導体の技術力が国の盛衰を左右するとの意識を持ち、
新工場の竣工式などにも足を運ぶ。
日本の政治家は、貿易摩擦のトラウマがあるようだが、
国として重要性を再認識する必要がある。

―巻き返しは可能か?

パソコンの普及期の1990年代は、日本は完敗だった。
これからは、日本が復権するチャンスだ。
テレビやビデオは、アナログからデジタルに変わるし、
あらゆる家電製品やカーナビもデジタルに変わる。
半導体技術を用いて、日本の電機会社が得意な
デジタルコンシューマー製品を、世界中で販売できるかが巻き返しのカギ。
任天堂やソニーなど、ゲーム分野では既に成功している。
ブルーレイなどDVDも、日本企業の活躍の場だろう。
携帯電話端末は、機能は世界一だが、海外では売れていない。
ドメスティック(自国)志向なためで、世界を志向しない企業に将来性はない。

―半導体技術はどこまで微細化が進むか?

微細化技術は、いずれ量子力学の壁があるとみられているが、
まだ10年から15年程度は微細化のトレンドが続く。
半導体は微細化とともに、多様化の方向性もある。
半導体は、電気製品などハイテク部品としてだけではなく、
さまざまな利用方法がある。
例えば、発光ダイオード(LED)は信号機で採用され始めた。
省エネ対策として、照明を白熱灯からLEDに切り替える需要も出てくる。
自動車で常に後部視界を確保するセンサーや、カメラのCCD、
CMOSセンサーとしての用途も広がるだろう。

―日本の半導体メーカーは生き残れるか?

微細技術がナノ単位となり、1つの最新の生産ラインの設備投資が
3000億円単位になりつつある。
エルビーダメモリと東芝は別として、規模が中途半端だと
新規投資が難しくなり、世界中から半導体の生産の委託を受けて、
規模のメリットを生かす台湾などのファウンドリーに
生産を頼まざるを得なくなるかもしれない。
そうなると、日本の強みである半導体の露光装置や表面実装機などの
メーカーも衰退し、半導体の先端技術が日本からなくなる。

国内の半導体メーカーがまとまって最新の生産ラインを作り、
共同利用することが1つの戦略だが、総論賛成・各論反対でなかなか進まない。

<牧本次生氏 略歴>
1937年鹿児島県生まれ。59年東大工卒、同年日立製作所入社後
一貫して半導体の道を歩む。89年半導体設計開発センター長、97年専務、
2000年退社。同年執行役員専務としてソニー入社、01年顧問。
半導体産業の標準化とカスタム化のサイクル現象を指摘、
91年に英紙から「牧本ウエーブ」と名付けられた。
現在はテクノビジョン代表。工学博士。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2007022082008

0 件のコメント: