2008年9月11日木曜日

科学技術外交のカード

(サイエンスポータル 2008年9月3日)

地球規模の課題解決のために、日本の科学技術を活用し、
開発途上国の人材開発を支援、日本の海外発信機能の強化も
図ろうという「科学技術外交」が、政策課題の一つに浮上。

その具体策となる、政府開発援助(ODA)との連携による
国際共同研究課題を科学技術振興機構が選定し、公表。
「環境・エネルギー」、「防災」、「感染症」の3分野から12の研究課題が採択、

共同研究の対象となる相手国は東南アジア、南西アジア、アフリカなど
ODAの技術協力の対象となっている国から選ばれている。
研究期間は3-5年で、年間1,000万-5,000万円の研究費が投じられる。

これらの研究課題・研究相手国の中には、
既にバイオエタノールの開発、利用で数十年の実績を持つブラジルのような
例もあるが、共同研究課題は相手国で深刻な問題になっているものばかり。

「海面上昇に対するツバル国の生態工学的維持」の研究代表者、
茅根創・東京大学大学院教授は、6月19日の
「太平洋島嶼国の環境と支援を考える国際シンポジウム」で、
「ツバルで起きていることは、海面上昇による水没という単純なものではなく、
ローカルとグローバルな問題が複合的にかかわっている」と報告。

ツバルは、標高が1-3メートルしかないサンゴ環礁からなる島国で、
首都のあるフナフティ島は100年前には100人ほどが住み、
標高が比較的高いラグーン側だけ。
中央部の低地は、100年前に英王立協会が作成した地質図に、
海水がわき上がっているという記載があり、マングローブも生えていた。
もともと高潮時には水没するような区域だった。

なぜ、最近になって問題になっているかといえば、
太平洋戦争時に飛行場が造られた結果、湿地の位置が分からなくなり、
1980年以降の人口急増で、湿地帯だった区域にも人が住むようになった。
フナフティの人口は、百年前の100人から現在、4,000人に増えている。

ツバルが直面しているのは、地球温暖化による海面上昇と
ローカルな問題の複合的な現象であり、
グローバルな地球温暖化対策に加え、高潮対策というツバル固有の課題。

茅根教授たちのやろうとしていることも、高潮の最初の防波堤である
サンゴと有孔虫による砂の生産、堆積速度を見積もり、生態系の修復や、
堤防の構築など人為的補助で砂の堆積量がどのように促進されるかを評価し、
海岸浸食対策や海岸管理計画の策定を支援すること。

最新式の機器を提供して、現地の人々が使いこなせずに終わってしまう
海外援助では意味がない。
新たに選ばれた12の共同研究は、政府が進めようとしている
科学技術外交のよい先例、カードになるだろうか。

「海面上昇に対するツバル国の生態工学的維持」以外の研究課題と
相手国は、次の通り(かっこ内は研究代表者)

◆環境・エネルギー分野

「気候変動に対する水分野の適応策立案・実施システムの構築」
タイ(沖大幹・東京大学 生産技術研究所 教授)
「サトウキビ廃棄物からのエタノール生産研究」
ブラジル(坂西欣也・産業技術総合研究所 バイオマス研究センター長)
「インドネシアの泥炭における火災と炭素管理」
インドネシア(大崎満・北海道大学大学院農学研究院 教授)
「熱帯地域に適した水再利用技術の研究開発」
タイ(山本和夫・東京大学 環境安全研究センター 教授)
「熱帯林の生物多様性保全および野生生物と人間との共生」
ガボン(山極壽一・京都大学大学院 理学研究科 教授)
「ナイル流域における食糧・燃料の持続的生産」
カイロ(佐藤政良・筑波大学大学院 生命環境科学研究科 教授)

◆防災分野

「ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」
ブータン(西村浩一・名古屋大学大学院 環境学研究科 教授)
「インドネシアにおける地震火山の総合防災策」
インドネシア(佐竹健治・東京大学 地震研究所 教授)
「クロアチア土砂・洪水災害軽減基本計画構築」
クロアチア(丸井英明・新潟大学 災害復興科学センター 教授)

◆感染症分野

「デング出血熱などに対するヒト型抗体による治療法の開発と
新規薬剤候補物質の探索」
タイ(生田和良・大阪大学 微生物病研究所 教授)
「結核およびトリパノソーマ症の新規診断法・治療法の開発」
ザンビア(鈴木定彦・北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター 教授)

http://www.scienceportal.jp/news/review/0809/0809031.html

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