2008年9月1日月曜日

キャンパス探訪(9)福祉の心 実直に説く

(読売 8月22日)

人気が低迷するなか、福祉の大切さを地道にアピールする大学。
丸めた細長いアクリル板に穴が開いた道具を手に、
男子高校生が頭をひねっている。
「コップの縁をはさみ、ストローが動かないよう固定するホルダー。
障害を持つ人が豊かに生活するために考え出された道具で、
自助具と呼びます」。
職員の説明を聞き、その表情が一際引き締まった。

「福祉の総合大学」を掲げ、55年の歴史を持つ日本福祉大学での
オープンキャンパス。
プログラムは、ストローホルダーの工作に取り組むようなコーナーを除くと、
模擬講義や入試ガイダンスなど、「地味な内容」(福島一政常務理事)が中心。

福祉系大学への志望者が減っている。
6月に約37万人が受けた進研模試では、社会福祉系の志望者数は
前年に比べて1割以上減。
訪問介護大手「コムスン」が不正行為で、
介護事業から撤退させられた問題が大きいようだ。

「介護の仕事への需要が高まっていくにもかかわらず、
きつくて汚いというイメージも先行しており、危機的状況。
福祉系大学のリーダーとしてもっとずうずうしく、本気で福祉の大切さを
アピールしなければ」と福島さんは強調。

同大では、受験生の親も巻き込んだプログラムに力を入れる。
保護者向けの説明会を開き、模擬講義も親子がいっしょに受けることを前提。

社会福祉学科の模擬講義のテーマは、「福祉って何だろう?」。
教室を埋めた約70人の親子に、教育心理学者ダイアン・シスクの
「愛する我が子へ あなたは本当に大切なんだよ」と題した文章が配られた。
「あなたは、大切だよ。あなたが、あなただからこそ、大切なんだよ」など、
愛情あふれる文を、伊藤文人講師(37)が逆の意味にするよう指示。

「あなたは、必要ないんだよ……」。
自ら発表した言葉の残酷さに気づき、沈痛な面持ちになる親子。
「言葉の力を通して、反福祉の世界を想像することにより、
我々は支え合って生きているという福祉の意味を、
現実感を持って追体験してほしい」と伊藤講師は狙いを明かす。

「明るい仕事ではないかもしれないけれども、介護福祉士になりたい。
大学のイメージがつかめた」と長野市から参加した
高校3年、反川綾菜さん(17)。
父親の司さん(48)も、「大学が考える福祉の意味が伝わってきた。
娘がこれからの社会に微力ながら役立ってくれれば」と言葉を継いだ。

保護者にも、福祉の重要性を丁寧に説く。
その実直な取り組みが、淘汰の時代を迎える福祉系大学の
生き残りの鍵を握るのかもしれない。

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