2008年9月5日金曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 橋本和仁氏インタビュー

(日経 8月24日)

橋本和仁・東京大学教授

―どんな技術分野に注目しているか?

日本が期待される分野は、エネルギーや環境。
環境技術は、これまではなかなか利益に結びつかなかったが、
二酸化炭素(CO2)の排出がコストと見なされ、見直される。
日本は、環境に関する基本的な技術がたくさんある。

エネルギー分野も注目。
5~6年前まで、バイオ、ライフサイエンスばかりだった
米国の科学技術研究も、ブッシュ大統領が2年前に一般教書演説の中で、
エネルギー分野への注力を表明して以降、状況が変わった。
今では、エネルギーに関連しないと研究予算がつかない雰囲気。
日本でも、エネルギー関連技術の研究が加速。

―個別に注目する技術は?

有機物を使った太陽電池。
色素によって、光エネルギーを利用する色素増感型太陽電池
長いこと研究され、技術的にかなりのレベル。
これまではシリコン系の太陽電池、薄膜系の太陽電池に対して、
どれだけ有利なのか、はっきり見極められない状況だったが、
最近、ソニーが色素増感型太陽電池に注力すると発表。
ソニーの技術は優れているようだ。

色素増感型は化学メーカーをはじめ、シャープ、新日本石油、
アイシン精機など日本の企業の多くが研究。
桐蔭横浜大学からベンチャーも生まれており、面白くなりそう。

もう一つは、すべて有機物からできている太陽電池で、
三菱化学が2010年までの3カ年計画の重点分野と位置づけ。

サイエンスとしても、有機物を使った新しいデバイスは大きな流れ。
有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)が代表例。
20世紀は、物理学と半導体の時代。
半導体は無機だが、21世紀は有機の世界になる。
有機ELは、電気で発光させる。
有機太陽電池は、光で電気を発生させる。
反応が逆なだけで、ほとんど物質も同じものが使われている。

―なぜ有機の時代なのか?

廃棄物や資源枯渇の問題から。
無機物のなかにはシリコンをはじめ、ガリウムなど希少金属(レアメタル)がある。
レアメタルは、地球上に幅広く存在するわけではなく、偏在。
レアメタルを使わず、どこにでもあるカーボンなど
一般的な元素を使ったものに置き換えていかないと、資源は枯渇。

有機ELは、以前はものにならないと思われてきた。
有機物は電気を流さないし、耐久性が弱く、安定性もない。
湿気、水分にも弱い。
だが、有機物も電気を通すことがわかり、研究で耐久性も向上し、
今ではパネルができるまでになった。
21世紀の科学技術は、自然に回帰する方向に進む。
自然と共生しないと、社会の持続は不可能だ。

―酸化チタンなど光触媒やナノテクノロジーが専門だが、今の関心は?

ナノテクを、いかに農業分野に応用していくかというのが長期的なテーマ。
ばかげていると思うかもしれないが、水田に生える稲の根から
エネルギーが取れないか実験。
微弱ながら、電力は得られた。
この分野は研究する人が少ないので、発見があるかもしれない。
でも、すぐにおカネにするのは無理な研究(笑)。

<橋本和仁氏 略歴>
1978年東大理学部化学科卒。
光触媒材料やナノテク、有機太陽電池の開発などが専門。
2004年から3年間、東大先端科学技術研究センター所長。
現在、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻教授。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2003022082008

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