2008年9月2日火曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 坂村健氏インタビュー

(日経 8月24日)

坂村健・東京大学教授

―ユビキタスという言葉を理解している人はまだ少ない。どんな研究か?

私が所長を務めるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所では、
どこでもコンピューターの情報処理能力が使える社会を実現すべく研究。
食品や薬品から会社の備品、道路や建物にいたるまで、
ICタグを付けることで、あらゆるモノや場所の情報が
ネットワークの世界に結びつけられ、最適なサービスが受けられる。

―ユビキタス関連で活躍する企業は?

モノに、ICタグを張り付ける技術が必要。
高度な特殊印刷技術と電子設計の技術も持つ大日本印刷や凸版印刷は、
世界でもあまり例のない企業で活躍の可能性がある。

ICタグのチップそのものは、半導体メーカーが作っている。
日立製作所が作る高性能チップは、大規模なDRAMの生産設備を
持ちながら、アンテナのテクノロジーも持つ総合電機メーカーだからこそできる。
韓国や中国の企業は、簡単にまねできない。

企業にとって気の毒なのは、高度なタグでも将来は、
5円、10円くらいでの販売を求められること。
タグ単体ではもうからない。
もうけるには、応用システムまで手掛ける必要があるが、
まだ汎用的な基盤が確立されていないため、
その基盤研究をしているのが当研究所。

―日本を見回したとき、有望と感じる技術分野は?

自動車やICT(情報や通信に関する技術)は、これからも強い。
フィンランドのノキアの携帯電話端末の販売台数は、
日本メーカーをすべて束ねてもかなわないが、
日本から端末構成部品をたくさん買っている。
村田製作所やミツミ、ロームなどが作る日本の部品がなければ、
何も作れないともいえる。
日本は完成品になると、法律や制度を巻き込んで
世界標準にしていく力が弱いので、苦戦する。

携帯電話の場合、海外と比べ日本では通信会社の力が強い仕組みで、
端末メーカーは通信会社のプランに合わせた端末しか作れない。
一方で、プランに従っていれば、国内市場で端末が売れるので、
端末メーカーも世界で激しい競争をしなくてもよかった。
国内だけで、通信会社と端末メーカーが一緒になって機能競争をした結果、
気がつけば日本は世界で最も高機能な携帯端末があふれかえっている。
一方、新興国では日本のような高機能端末は必要とされず、
販売は伸びない。

―日本のハイテク企業の魅力は乏しいということか?

日本企業は、技術力はまだ劣っていないが、
企業がこのまま日本市場だけにしがみついていては成長は難しい。
日本から出る勇気を持って、グローバルに展開していく企業が
一歩抜け出るのではないか。
毎日のように企業の人と接触していると、
水面下で芽は出始めていると感じる。
投資家の視点で言えば、いち早く世界市場に打って出た企業に、
投資の魅力があると言える。

<坂村健氏 略歴>
1951年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。
国産基本ソフト「TRON(トロン)」の提唱者で、
リーダーとして世界中にTRONを普及させた。
現在は、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長、
日本発のユビキタス技術を世界に広めようとしている。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2000022082008

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