(読売 8月26日)
休職し、自費で教職大学院に通う教師がいる。
「先生、ちゃんと勉強してる?」、
「私たちも頑張るから、先生も頑張ってね」
久しぶりに北海道に帰ってきた太田恵子教諭(45)に、
札幌市立米里小学校の児童が次々と抱きついた。
太田教諭は4月から上京、玉川大学教職大学院で学んでいる。
3月まで担任していた児童が、札幌市内で開かれる
YOSAKOIソーラン祭りに出演するため、練習会場の体育館に駆けつけた。
練習の途中、騒ぎ出した児童に、
太田教諭は「この緑の線の上に乗って」と体育館の床を指さした。
児童はさっと一列に並ぶ。
居合わせた保護者から、「さすが太田先生」。
太田教諭は、「子供の感覚と大人の感覚は全然違う。
子供に分かりやすく指示すれば、大声を出さなくても1回で済むんですよ」
太田教諭が、改めて大学院での「学び直し」を決意したのは、
特別支援教育についてじっくり勉強するため。
教師の指示にうまく反応できない児童や集中力がない児童に対し、
障害を疑わずにしかってばかりいたことが、心に引っかかっていた。
学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの
存在を知って合点がいった。
専門書を読み、毎月、精神科医との勉強会に参加、
臨床心理士らが集まる学会にも顔を出すようになった。
現職の再教育を大きな目的に掲げ、実習重視で実践的な内容を
幅広く学ぶ教職大学院ができることを知った。
最新の教育論や指導法が勉強できるだけでなく、
玉川大には、付属の脳科学研究所があり、障害に対する最新の
脳科学的な知見を交えて学べると思った。
大学院修学休業制度を利用することにした。
進学を希望する現職教員に、1~3年の休職を認める制度。
この制度が2001年に出来るまでは、都道府県教委からの
派遣命令がないと、現職のまま進学することはできなかった。
08年4月までに、1230人がこの制度を利用したが、休業期間中は無給。
教職大学院に進んだ現職教員の多くも、
有給で学べる派遣命令を得た人が多数派。
太田教諭も、在学中は給料がもらえない。
入学が決まると、大学院の近くに小さなワンルームマンションを借りた。
運良く日本学生支援機構から奨学金を受けられたが、
家賃、学費、年金や介護保険料など、かさむ出費をやりくりする。
後悔はないが、「これでは(大学院に)来たくても、
来られない先生が大勢いるのも、無理はない」
以前から、全国各地で開かれる学習会や研修会に参加してきた。
学校に保管されている研修申請簿には、太田教諭の名前が延々と続く。
ことわざや俳句の暗唱、辞書を使った授業など、
新しい指導法は手当たり次第に試した。
効果が高いと聞けば、電子黒板でもプロジェクターでも自費で購入。
「少しでも良い指導ができるのなら、お金も時間も惜しくない」
そんな努力家だけに、都内の小学校を視察したり、ほかの学生を相手に
模擬授業を行ったり、といった日常のほか、
空いた時間には教育学部の講義を聴講する。
「この1年は、高価な買い物だから、一瞬でも無駄にしたくない」と、
街を歩いている時は、東京の小学生の様子の観察。
「電車の中で本を読む子が多い。さすが東京。
札幌の子供たちと、こんなに違うとは思わなかった」
「教師が学び続けなければ、子供が伸びるはずがない」が持論。
自分に続く教師が、どんどん現れてほしいと願っている。
◆人材育成の動き広がる
意欲の高い教員に、大学院などで学ぶ機会を与え、
プロの教師を育てようとする動きが広がっている。
いじめや不登校問題、子供たちの学ぶ意欲の低下などで、
指導が複雑化する中、教員の大量退職時代が始まり、
指導的役割を担う次世代の人材育成が必要とされている。
大学院の修士課程まで学ぶ専修免許状は、1980年代に出来ている。
教員養成系大学には、それ以前から、研究中心の大学院はあったが、
今春には、教職大学院が全国に19大学(国立15、私立4)に開校、
364人の現職教員が入学。
教職大学院は、現職教員の「再教育」を大きな目的の一つに掲げている。
各地の教育委員会も、ここ数年、授業力向上を狙いとした
教師向けの塾を相次いで開設。
共通するのは実践重視。
教職大学院は、2年間で取得する単位のうち、10単位以上を実習に充て、
専任教員の4割以上を校長経験者などの実務家で占める。
教育委員会主催の塾も、ベテラン教員が指導者を務める例がほとんど。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080826-OYT8T00195.htm
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